インタビュー & 特集

SPECIAL! ブロードウェイミュージカル『ピピン』観劇ルポ

最高・最強のアクロバティック・ミュージカルがやってきた! 現在、渋谷の東急シアターオーブで公演中のブロードウェィミュージカル『ピピン』。ロープに宙づりになってクルクル回りながらでも、あっという間に衣装替えするイリュージョンの瞬間にも、見事に歌って踊る粒ぞろいのキャストたちが織りなすハイクォリティ・ステージは、理屈なしに楽しめる大傑作だ。( 文:仲野マリ  上の写真© Shinobu Ikazaki)

INTERVIEW & SPECIAL 2015 9/9 UPDATE

次から次へと客席に降り注ぐブロードウェィ・シャワーに酔いしれる本作、初めてミュージカルを見る人には最高! そしてミュージカル好きなら、絶対に見逃してはいけない!

圧倒的な歌声とフォッシー・スタイルのダンスがサーカスと融合!

Magic To Do2 Pippin Japan Tour 2015
クレジット表記:© Shinobu Ikazaki

『ウィキッド』などを生み出したスティーヴン・シュワルツの作詞・作曲により生まれた本作は、『シカゴ』『キャバレー』でおなじみのボブ・フォッシーが演出・振付で1972年に初演、「名作」と言われながらもブロードウェイでは長いこと再演されずにいた。
これをシルク・ド・ソレイユばりのアクロバット・サーカスと見事に融合して21世紀によみがえらせたのは、アメリカン・レパートリー・シアターの芸術監督であり、2008年にロック・オペラ「HAIR」のリバイバルも成功させた演出家ダイアン・パラウスである。『ピピン』は2013年のトニー賞ではミュージカル部門最優秀リバイバル賞・最優秀演出賞を含む4部門受賞の栄冠に輝いた。

新卒社会人ピピン、自分探しの旅に出る

Morning Glow2 Pippin Japan Tour 2015
クレジット表記:© Shinobu Ikazaki

「ピピン」というのは8世紀から9世紀にかけて実在したヨーロッパの王様の名前。物語もそのころの王家をベースに構成されるが、「枠をもらった」だけで、主人公のピピンは丸首のシャツにジーンズを着た若者として登場する。
大学を卒業したばかりのピピン(ブライアン・フローレス)は、父王チャールズと一緒に戦争で活躍し、軍で英雄になりたいと思うけれど、父は「お前は大学出たんだから、アタマで国を動かすほうにまわれ」とすげない。足手まといになりつつも初めて参加した戦争で人を殺したピピンは、敵だと思っていた男が自分となんら変わりのない人間であることに衝撃を受け、戦争に幻滅する。それでも「自分は何かでっかいことができる人間だ!」「平凡な生活から抜け出すんだ!」と「自分の居場所」を探して父と袂を分かつ。
ブライアン・フローレスは今回のツアーで初めてピピン役を務めるが、その純粋で滑らかな歌声は、希望に燃える若者にピッタリ! やがて生活を共にし愛を育むこととなるキャサリン(ブラッドリー・ベンジャミン)のソプラノとともに、世俗の欲や欺瞞にまみれず理想を追い求めようとする穢れなき魂をその声で表した。


彼をたきつけ、「ありきたりでない」「もっとすごい世界」に誘うのがサーカス団の「リーディングプレイヤー」(ガブリエル・マクリントン)だ。初演時の男性から今回は女性という設定に変わっている。ガブリエルのしなやかで強靭な肉体と声は性差を超え、狂言回しという重要な役として、大きなパワーを舞台に与えている。

「何浮かない顔してるの? 世の中って楽しいことがいっぱいよ!」とばかりに若者の夢をアクロバットで描くシーンはどれも秀逸だ。やみくもにサーカスシーンを挟んでいるのではなく、一つ一つの技に意味を持たせて登場人物の心理を表しているところがニクイ。
先妻の息子ピピンを陥れようと画策する義母ファストラーダ役のサブリナ・ハーパーもキレッキレのダンスと歌声でマリリン・モンロー的な甘いムードと陰謀渦巻く妖しい色気とを振りまいていく。
初演ではそのファストラーダ役だったプリシラ・ロペスが、実年齢と同じ「おばあちゃん」役のバーサだ。孫のピピンに「人生を楽しみなさい」と歌いかける「Not Time at All」は、圧巻! 最後は見事な肢体を披露して、アクロバットもやりながら息も上がらず朗々と歌い上げる。その女優魂には恐れ入るとしか言いようがない。

楽しいけれどコワイ「サーカス」の二面性が冴えたフィナーレ

Leading Player and Company (2)
クレジット表記:© Shinobu Ikazaki

「こっちの水は甘いよ」といいながら、平凡でも平和で穏やかな家族の営みから巧みにピピンを引き抜いていくリーディングプレイヤーは、初演時は「君も英雄になれる!」の言葉で多くの若者をベトナムに送った軍の象徴であった。「あの頃は自分の息子がいつ戦争に行くのかどの家庭も不安だった」と初演でピピンを演じ、今回はチャールズ役のジョン・ルービンスタインは振り返る。
徴兵こそなくなったが、アメリカは21世紀の今も若者を戦争に送っている。サーカス団は、まさに経済的見返りを約束して貧しい若者を軍へと勧誘するリクルーターの姿なのかもしれない。
意図的に世の中をバラ色に「演出」していた照明や舞台装置がなくなっていく後に一筋のスポットライトが当たるフィナーレは、ぞっとするほどオソロシイ。

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ブロードウェイミュージカル『ピピン』
生演奏/英語上演/日本語字幕付
2015年9月4日(金)~9月20日(日)*7日(月)、15日(火)は休演
東京シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
主催:フジテレビジョン/キョードー東京/ローソンチケット
協力:BSフジ  後援:アメリカ大使館/WOWOW

公式サイト pippin2015.jp


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