インタビュー & 特集
INTERVIEW!現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』平岡祐太さん×水田航生さん Part.1
三島由紀夫×野村萬斎×マキノノゾミの異色のタッグによる「現代能楽集」シリーズ最新作。『卒塔婆小町』と『熊野(ゆや)』の2編を1本の芝居に書き下ろした『道玄坂綺譚』に出演するのは、三島ファンを自認する平岡祐太さんと、三島作品への出演経験もある水田航生さん。稽古に入る前のタイミングでお話をうかがいました。(文/小柳照久 撮影/熊谷仁男 スタイリング/石橋修一〈平岡祐太〉 吉本知嗣〈水田航生〉 ヘアメイク/山口淳)
INTERVIEW & SPECIAL 2015 10/15 UPDATE
――世田谷パブリックシアター芸術監督の野村萬斎さんが企画・監修を務める「現代能楽集」シリーズ。能の物語に着想を得て、日本演劇界を代表する顔ぶれが新作を書き下ろし、時に能の演出手法に触発されながら、新たな「現代能楽集」を生み出してきました。
水田 今回で第8弾になるんですが、(シアタートラムではなく)世田谷パブリックシアターで上演されるのが2度目というのが意外でしたね。
平岡 ちょっとプレッシャーだね、劇場が大きくなって。
水田 今年、『マーキュリー・ファー Mercury Fur』でシアタートラムの舞台に立ちましたが、パブリックシアターは初めてです。求心力のあるすごく良い劇場だと思いますし、本番で舞台に立つのが今から楽しみですね。
――映像でも活躍されているお二人ですが、劇場の魅力とは?
平岡 観客にとっては、目の前で演じているというライブ感があるところでしょうか。また、映像だとカット割りがされていますが、舞台だと全体が見えるので、観客一人ひとりが観たいところを観ていただけます。自分が舞台を観に行く時は、「今お客さんがみんな笑ったけど、何が面白いと感じたのかな」とお客さんの反応を見たりもします。舞台経験豊富な水田さんは、どう?
水田 劇場の魅力は、やっぱり、ライブ感に尽きると思うんです。同じ芝居をやっていても、日によってまったく違います。毎日のちょっとずつのズレが良い方向に転ぶこともあり、やっている側も面白いです。劇場によって、街によっても違う雰囲気ですし、何よりも目の前にいるお客さんが違いますし。セリフの聞こえ方が違う日もあれば、共演者の顔が違って見えてくる日もある(笑)。いろんな要素が結集し、あらゆることを感じ取る第六感が働くのが劇場という場所なんだなと思いますね。
――今回の『道玄坂綺譚』は、能を原作とし、三島由紀夫が戯曲化した「近代能楽集」を、マキノノゾミさんが現代版として作りかえています。さらに、二つの作品『卒塔婆小町』と『熊野』が同時進行するという、二重・三重のトリックが隠されています。三島版がワンクッションになっていますね。
平岡 三島由紀夫さんの「近代能楽集」でも抽象的な部分が多いんですが、言葉の力強さや美しさで、ぐいぐい作品を引っ張っている感じです。今回の舞台でも、ラストに至るまでの過程も面白く、最後まで楽しんで観ていただけると思います。また、能を観たことがある方、そして「近代能楽集」を読んだことがある方は、マキノノゾミ版ではどういうふうに三島さんの作品を解体して、再構築しているのかを楽しみに来てもらいたいと思います。
水田 三島由紀夫さんが書いたものが現代に変換されて舞台になるというのは意味があることだと思いますし、この舞台を観た若い人たちが、この作品をきっかけに三島作品を読んだり、能を観に行ったりしてもらえるように、しっかりとパワーをもって演じたいと思います。
平岡 三島由紀夫さんによる戯曲は、構成とかも現代っぽくはないですし、やや唐突な、切れ味のある展開をすることが多いです。まずお客さんには、異次元の空間に引き込まれてほしいと思います。今回僕は、ネットカフェの従業員・キイチと、幻想の中では洋館の女主人(一路真輝)の恋人・深草貴一郎を演じます。キイチは三島版では「詩人」という設定ですが、詩人という職業が現代には馴染まないかもしれないところを、マキノノゾミ版では「駆け出しの映画監督」と設定されています。2本の戯曲を1本にまとめるので、どう展開するのか未知数、何が生まれるかわからないのが面白いです。
水田 マキノさんが設定を現代に置き換えて、ネットカフェなどを舞台に描くというのは、われわれの想像を超えるものになるのではないかと演じる側も楽しみですね。原作の『卒塔婆小町』は、『世にも奇妙な物語』にもありそうなストーリーだとも感じます(笑)。『熊野』は心理劇ではあるけれど、「お母さんが死んだから行かなあかんねん」って嘘をついて休暇をもらおうとしたらお母さんが来てしまう、というコメディ色が強い物語ですね。
――もともと能がベースなので、豪華に飾り付けるのではなく演技力勝負のところもありますよね。
平岡 もう勝負するしかないです。以前、泉鏡花作の『天守物語』に出演した際、ステージに何もない中で演技をするというのに挑戦したことがあるんです。その時、演出の白井晃さんから教わったんですが、やはり言葉の力が重要になってくるんですね。セリフを言っている役者の背中を見て、お客さんの頭に景色が浮かぶか。今回どれくらい幻想世界が舞台装置などで表されるかはわかりませんが、言葉の力を大切にしながら、ライブ感をもってお客さんに伝えていけたらと思います。
水田 平岡さんがこれまで出演されているのって、幻想的な作品が多いんですね。
平岡 そうなんだよね。泉鏡花の、それも古典の言葉での上演だったので、次は現代劇かなと思っていたら、能が来たか(笑)! と。幻想の場面は、この世のものじゃない感じになればいいなと思っています。
――水田さんも現実世界と幻想世界を演じ分ける役どころですね。
水田 僕は『熊野』側の登場人物で、現代ではネットカフェの店員、幻想世界では倉科カナさん演じる熊野の恋人・薫という役です。ネットカフェの店員というリアルな役に対して、幻想世界に飛んだ時に、どうなるか。二役を一つの作品の中で演じ分けるのはやったことがなかったので、新たな試みです。二役ですが役名は一緒なんです。ネットカフェの店員・カオルと、幻想の世界の薫はまったく別の人格になるのであれば、その違いをどう出していくか。現実と幻想の境目を抽象的にするのか、それぞれリアリティを追求して演じ分けていくのか…。
平岡 『熊野』の時代設定は未来だってマキノさんがおっしゃってたね。
水田 現代と未来というのが難しいです。
平岡 未来といっても近未来じゃなさそうだしね。
水田 今の段階では上演台本がどうまとめられているかわからないんですが、『卒塔婆小町』とどうリンクするのかも面白いですよね。
平岡 過去に戻る『卒塔婆小町』と未来に飛ぶ『熊野』が同時に進行するんですが、新作なのでこうしてしゃべっている間に変わってしまうかもしれないね(笑)
(→Part2へ続く)