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SPECIAL! 『イヌの日』舞台写真&劇評
8月10日(水)から21日(日)まで、下北沢 ザ・スズナリにて絶賛上演中の『イヌの日』。阿佐ヶ谷スパイダースの名作が、劇団「ゴジゲン」主宰・松居大悟の演出でよみがえりました。舞台写真とともに劇評をおとどけします。(文/湊屋一子、写真/関 信行)
INTERVIEW & SPECIAL 2016 8/19 UPDATE
2000年の初演、2006年のリメイク上演に続く、3度目の『イヌの日』。今回は劇団「ゴジゲン」主宰・松居大悟が演出を手がけた。
遊び仲間の中津(尾上寛之)に「200万円やるから」と、ありえない役割を押しつけられる広瀬(玉置玲央)。その役割とは、中津が15年間自宅裏の防空壕に“監禁”してきた人々の世話だった。
「10年くらい閉じ込めたらどうなるのかと思って」
「そのあとどうすんだよ!?」
「それがわかんねえから15年経っちゃったんだよ」
だいたいこのような言い回しの、広瀬と中津のやりとりがある。ああ、なんというリアル感だろう、としみじみ思った。さしたる悪意もなく「うざい」「めざわり」「なんとなく」で暴力を振るう人間。端から見れば「そんなことしたらあとで困るだろう」と思うようなことも、そもそも後先考えないからそんなことが出来るのであって、そういう思考回路の人間に「そのあとどうすんだよ」と訊いてもムダだ。いつかは決断して状況を変えなければいけないという、厳然たる事実に目を背け逃げ続ける彼らは、にっちもさっちも行かなくなると、さらなる暴力を振るう。
今、世の中でそんな事件は毎日のように起こっている。いい人だからいい目に遭い、悪い人だからひどい目に遭う、そんなことはなく、むしろいい人がひどい目に遭い、ひどいことを出来る人がのさばっている、そんな風に感じている人も多いだろう。客席で彼らを見ながら、中津を頂点とする他者を理不尽に虐げる人間に罰が当たればいい、罰が当たればいいと思い続けていた。現実がそうでないなら、せめて空想の産物である物語の中でくらい、“本来こうあるべき姿”が見たい。
その結末は劇場で、体感で確かめてほしい。1つ言えることは、この『イヌの日』は上演されるたびに見たくなる芝居だと言うことだ。なぜならこれは現実ではないけれど、どこかで本当に起こっていることだと確信する、リアルな非日常だから。この、肌に感じるリアルは、小さな空間に登場人物とともに閉じ込められる、小劇場でしか味わえない。体の奥が冷たくなる恐怖を味わうなら、芝居の中だけにしたいものだとつくづく思う。
『イヌの日』
8/10(水)~21(日)ザ・スズナリ(下北沢)
作/長塚圭史
演出/松居大悟
出演/尾上寛之、玉置玲央、青柳文子、松居大悟ほか