インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『貴婦人の訪問 -THE VISIT-』瀬奈じゅんさん
フリードリヒ・デュレンマットの名作『老貴婦人の訪問』が、2014年ウィーンでミュージカル『貴婦人の訪問 -THE VISIT-』となって大ヒットを記録。2015年、日本人キャストで上演され、本年11月に早くも再演されます。再演で同作に初めて挑むのは、瀬奈じゅんさん。2014年夏の『シスター・アクト~天使にラブ・ソングを~』以来、久々のミュージカル出演となる瀬奈さんが、多額の寄付金と引き換えに元恋人から「死」を要求される男の妻という難役に挑みます。(取材・文/長谷川あや、撮影/須田卓馬)
INTERVIEW & SPECIAL 2016 9/30 UPDATE
──『貴婦人の訪問』という作品に最初に接したときの印象を教えてください。
初演は拝見できなかったのですが、資料映像を観て、「私に務まるのかしら?」と(笑)。今は頑張るしかないと思っています。
今回の再演の出演者は、アンサンブルの方を含め、私以外、みなさん初演に出演されているんです。みなさんに頼れるところは頼り、気負わずにいいものを作っていきたいですね。
──今回演じる、マチルデという役柄についてはどのようにとらえていますか?
台本を読んだ限りの感想ですが、マチルデは、アルフレッドの気持ちが自分にないことをわかっていて結婚したのではないかと思っています。彼の心はまだクレアにあるけれど、私はこの人を愛しているし、結婚してから絆を深めていけばいいと考えての結婚なのではないか、どこかであのラストシーンを予感していたんじゃないかな、って。一緒に過ごしていたら、相手が自分のことを愛しているかどうかはわかるはずです。夫婦の関係性はそれぞれですが、一主婦の立場としては釈然としない部分もあります(笑)。
ただ、いろいろな解釈ができる作品なので、やってみないとまだわからない部分も多くて。演出家やみなさんのお芝居をみながら、役をかためていきたいですね。
──一見、良妻賢母という役柄です。
私のイメージじゃないですよね(笑)。エリザベートはあんな感じだし、アンナ・カレーニナは不倫しちゃうし、良妻賢母の役柄は初めてです。自分に役を近づけるのではなく、役に自分を近づけるかたちで役にアプローチしていくつもりです。ただ、今回はいつも以上に、役と自分の間に距離があるかもしれませんね。
──山口祐一郎さんとの夫婦役も楽しみですが、アルフレッドってひどくないですか(笑)。
ひどいですよね(笑)。でも祐一郎さんがやるとなんでも許せてしまう。それが祐一郎さんの魅力だし、マチルデを演じる上でそういう感覚は持っていていいんじゃないかと思っています。
──1幕では、自分の命を寄付の条件にされ、怯えるアルフレッドに対して、「私があなたを守る」と「愛こそ、砦」というナンバーがあります。
とても母性にあふれた楽曲なのですが、これが一方通行だというのは切ないですよね。ただ、これほど母性にあふれ、これほどアルフレッドを愛しているのに、アルフレッドはマチルデを選ばない──。必ず理由があるはずで、その理由を見つけ出さないといけないですね。
「愛こそ、砦」は、ちょっとした音の違いで曲の印象がまったく変わるんですよ! アルフレッドがマチルデに対し、「きみは楽天的だな」というせりふがあるのですが、この曲の原曲を聴いた時、彼女の生来の明るさ、前向きさを表しているように感じたんです。
──クレアに対しては、どんな印象を持っていますか。
登場人物のなかでいちばん筋の通った人なのかもしれません。愛情が深く、当たり前のことに当たり前に傷つき、もがく──。手段がストレートじゃないだけで、感情はとてもストレートな人だと思います。他の人たちはすぐに状況や環境に流されますが、クレアは決して流されません。
資料映像を観たとき、涼風さん演じるクレアのすばらしさに圧倒されました。宝塚の大先輩ですが、お芝居でご一緒させていただくのは今回が初めて。とても楽しみにしています。
──クレアは10代の頃の恋を、20年後も忘れられずにいますが、瀬奈さんの10代の恋の思い出を教えてください。
これ言っていいのかな(笑)。中学から高校にかけて、ずっと電車で一緒になる男の子のことが好きだったんです。彼は2つ年上。ちょうど私が宝塚に行く頃に卒業してしまうので、思いきって告白して、思い出に第2ボタンのようなものが欲しいと伝えたんです。でも彼の学校の制服、第2ボタンがないデザインだったんですよ。で、その人、何を思ったか、ズボンをくれたんですよ!
──(笑)。クレアは、アルフレッドの命と引き換えに、20億ユーロの寄付を申し出ますが、20億ユーロは、現在(2016年9月現在)のレートで約2300億円です。瀬奈さんがそれだけのお金を手に入れたらどうしますか。
そうですね……、半分は寄付して、半分はハワイに別荘を買って、両親に家を建てます。お金は死んだら使えませんからね。残りは貯金して老後に備えます。ただ、仕事は続けたいですね。
──そのお仕事ですが、今後、仕事を続けていくうえで大切にしたいこと、また、今後、やってみたいことはありますか。
私、欲深いんです。歌も踊りも大好きなので、オールマイティーにやっていきたいですね。お着物を着て、扇子を持って、洋楽で踊れる──、そんなオールマイティーさが宝塚の良さだと思うんです。
歌も踊りも、ものすごくうまい人はたくさんいて、「私なんて」と落ち込むこともありますが、宝塚の先輩方を見ていて、オールマイティーというのは大きな武器だと思うようになりました。歌も、踊りもお芝居ももちろんうまいに越したことはありません。努力は続けますが、なんでもできる人になりたいと思っています。
──最後に、瀬奈さんの久々のミュージカル出演、また、『貴婦人の訪問』という作品を楽しみにされている方に向けてメッセージをお願いします。
しばらく舞台から遠ざかっていたので久しぶりのミュージカル出演になります。やはりミュージカルは大好き! とても楽しみにしています。
人間の感情の滑稽さが描かれている『貴婦人の訪問』という作品は、どこかシェイクスピアの喜劇に通じるところがあるようにも思います。観劇後、議論ができるところも魅力ではないでしょうか。この世界観を楽しみに、劇場に足を運んでいただければうれしいです。
プロフィール●せな・じゅん
1992年宝塚歌劇団で初舞台。2005年、『JAZZYな妖精たち/REVUE OF DREAMS』で月組トップスターとなる。宝塚版『エリザベート』では、ルキーニ、エリザベート、トート、3役を制覇。2009年12月、『ラスト プレイ/Heat on Beat!』で宝塚歌劇団を退団後は、女優として『エリザベート』『アンナ・カレーニナ』『エニシング・ゴーズ』『シスター・アクト〜天使にラブ・ソングを〜』など、数々の舞台でヒロインとして活躍中。
ミュージカル『貴婦人の訪問 -THE VISIT-』
プレビュー公演 2016年11月3日(木・祝)~5日 (土) 東京 北千住 シアター1010
2016年11月12日(土)~12月4日(日) 東京 日比谷 シアタークリエ
2016年12月9日(金)~11日(日)福岡 キャナルシティ劇場
2016年12月17日(土)~18日(日)名古屋 中日劇場
2016年12月21日(水)~25日(日)大阪 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
演出:山田和也.
出演:山口祐一郎、涼風真世、瀬奈じゅん、今井清隆、石川 禅、今 拓哉、中山 昇 ほか
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