インタビュー & 特集
INTERVIEW!『扉の向こう側』吉原光夫さん&岸祐二さん&泉見洋平さん
とあるホテルのスイートルームの“コネクティングドアー”(隣室に繋がる二重扉)を開けると、そこは過去だった!? 現代イギリスを代表する喜劇作家アラン・エイクボーンの『扉の向こう側』が、実力派キャストを揃えて上演されます。実業家として成功を収めるものの、己の犯した数々の罪に懺悔の思いに駆られるリースを吉原光夫さん、リースの共同経営者にしてリースの妻殺しの過去を持つジュリアンを岸祐二さん、知らず知らずのうちに事件に巻き込まれる気のいい警備員ハロルドを泉見洋平さんが演じます。ミュージカル界でもご活躍の皆さん。今回はストレートプレイということで、男性キャスト陣は稽古場でどう感じていたのでしょうか。(取材・文/小柳照久、写真/熊谷仁男)
INTERVIEW & SPECIAL 2016 11/15 UPDATE
――1994年に発表されたアラン・エイクボーンの戯曲で、日本では1997年のパルコ劇場公演以来、様々なプロダクションで再演を重ねています。
吉原 『扉の向こう側』は時空を超えるストーリーなので、最初に台本を読んだ時点では作り込まなくてはいけない作品かと思ったんですが、稽古が始まってみたらいつもと同じでした。僕が演じるリース役は、人生の終わりを迎えるにあたって過去の悪事を告白する場面からスタートし、タイムワープを経て、結末に登場します。その間に起きていることを、彼自身は知らないんです。いつもは、あまり影響されないように、自分が出演しない場面の稽古は見ないことが多いんですが、今回は役者として温度を知っておいたほうが良いかなと思って、なるべく見ているのが新しい感覚です。
岸 ミュージカルだと年代を飛び越えていきなり「●年後」となることも多いので、特別違和感はなかったのですが、僕が演じるジュリアンは途中で若返って出てくるので「若い時はこうだったんだ」とお客様にわかるような作りはしなくては、と考えています。現在と過去が繋がっているポイントはいくつか作っておきたいと楽しんでいるところです。ジュリアンはリースの共同経営者でリースの妻たちを殺す役ですが、登場しない場面でも「あいつは……」と語られることが多いので、それがちゃんとイメージづけられるようにと思っています。
泉見 ミュージカルではナンバーで時空を超えたり、歌やダンスでファンタジーを表現できますが、今回はストレートプレイということで、台本を読んだ段階ではどういうふうになるんだろうなと思っていました。稽古が始まってみると、意外な場所がタイムマシンになっていたり、扉を開けることでタイムワープしたりする感覚が新しいです。この作品の中で、僕が演じるハロルドだけが事件に関係ないはずなんですが、関係ないのにすごく関係してしまって、コメディを盛り上げています。
――ミュージカルでも大活躍中の皆さんですが、ストレートプレイの稽古はかなり勝手が違うものでしょうか?
吉原 それはないですね。喉のケアが違うくらいかな?
岸 歌ったほうが喉は楽ですよね。
泉見 歌ってるときは喉が開いてますからね。
吉原 台詞のほうが喉はシンドイです。
泉見 ミュージカルでは音楽が流れているので、決まった尺の中で台詞を入れなきゃいけないんです。僕はストレートプレイに慣れていないので、自由なぶん、最初は不安がありました。ミュージカルは歌稽古から始まって、まずキャラクターや気持ちを把握したうえで立ち稽古に入るんですが、ストレートプレイではいきなり本読みをして立ち稽古がスタートしたので、最初は「どうなるんだろ?」という感覚でした。でも、稽古場で皆さんのアプローチや役作りを面白く見せていただき、「こうじゃなきゃいけない」というものがないのがストレートプレイの魅力なんだと、今頃になってわかり始めたところです。
岸 『扉の向こう側』はアラン・エイクボーンの脚本がしっかりしているということがあると思います。たとえば不条理な作品だと役者の理解力を超えてしまうので、演出家が先陣を切って「こう読んでほしい」とか「今回、こう演出したい」というのを提示して皆がそこに向かって登っていく感じなんですけれど、今回はいきなり「よーいドン!」でも俳優がいろんな芝居を出し合えます。カードゲームみたいに、ルールを皆が知っていれば、いきなりスタートできるんです。
吉原 板垣恭一さんの演出は、役者が自由に芝居することを任されている感じです。そのぶん、役者がちゃんと役を作り込むことが求められます。こうしなくちゃダメっていうのはないですね。
岸 こちらのアイデアを受け入れてくれるので、心を広くもって見てくれてるんだと思います。良い感じに稽古が進んでいますよ。
――この作品ではイギリスの中産階級・上流階級の人物が集まりますが、役作りはどのようにスタートされたのでしょうか?
吉原 実際に自分がお金持ちになったことはないですが、昔、ホテルでアルバイトした経験があります。また、お金がない時もあえて高級ジムでアルバイトして、観察眼を磨いていました。そんなことが今回のような役を演じる時に役立っています。リースは実業家として成功を収めていますが、岸さん演じるジュリアンともども成り上がりなので、ある意味自分に近いんじゃないかなと思ってます。『扉の向こう側』の登場人物で、生粋の上流階級って紺野まひるさんが演じるジェシカくらいじゃないかな。ジェシカはお嬢様だけど、一路真輝さんが演じるルエラは違う。上流社会に入り込んだ人間です。
泉見 ハロルドも従業員なので上流階級の人間ではないけれど、一流ホテルのスタッフであるというプライドは持っていて、お金持ちのお客様が大好きです。夢を持っている役なので、感情移入しやすかったですね。稽古前にホテル務めだった方とお話する機会があったんですが、新人研修では徹底したトイレ掃除もするそうです。
吉原 良いホテルであればあるほど、スタッフの教育も厳しくて、星(格)を保ってますね。
岸 役者を続けていると、いろんな人といろんな仕事をしてきて、関わり合いが蓄積されます。多彩な作品に携わったり、映画を見たりするのも財産です。役作りをするにあたって、たとえばラスベガスの一流ホテルで見た人間模様など、自分の経験を利用するだけでなく、役作りする際にイメージする人も必ずいます。悪い人も見てきました。今回は“イギリスの空気”っていうのを勉強中ですね。
吉原 アメリカのコメディとイギリスのコメディは違いますね。アメリカのコメディがウィットに富んでいるのに対し、イギリスのコメディはアンチテーゼ的なところが大きかったりします。とりわけエイクボーンの作風が顕著だと思うんですが、戦争やイギリスの状況といった背景がすごいんです。心の奥で「大きい戦争で負けたことがありません、私たちは強いです!」と思っていることに対して警笛を鳴らすエイクボーンって、頭が良いんだなと思いました。台詞で本音を語らないあたり、日本に似ているところもけっこうあって、イメージですが、京都っぽいところがあるかな。
岸 背景に危機感をちりばめているあたり、面白いし、しゃれてるよね。
吉原 説教くさく見せないのがすごいよね。人生における妬みや嫉みを抱えたリースの老年期だって、70代の俳優が演じたらリアリティがありすぎて痛々しいけれど、僕くらいの年代の役者が老人ぽく演じることでお客さんに世界観を提示します。
岸 笑いどころはお客様の受け止め方で変わってくると思うんですが、日本のお客様は欧米に比べて笑いがおとなしいので、外国の演出家がいつも焦ってる(笑)。
泉見 日本人はシャイですよね。
吉原 アメリカは一生懸命生きている人がミスすると「自分も経験ある!」と共感して笑うんですが、日本の場合は「私はそうじゃない」とシリアスに受け止めちゃったりする。
岸 でも今回は、客席を笑わせようとか面白いことをやろうとか、そういう意識はまったく要らないですね。
吉原 脚本でしっかり書き込まれてるよね。
泉見 きっと女優さんたちがドカンと笑いを作りますよ。関西(宝塚)で鍛えられてますから。
――さて、『扉の向こう側』では20年前、40年前と過去にさかのぼります。みなさんは自分の過去へのタイムトリップに興味はありますか?
泉見 人生って選択の連続だと思うので、違う選択をしていたらどうなったか、というのをちょっと知りたい気がします。戻りたいわけじゃなくて見てみたい。
吉原 泉見さんはいろんなことをやらかしてきたんですか?(笑)
泉見 今の頭脳を持ったまま戻れるとしたら、10代、20代に戻って「あんなこと言わなきゃよかった」と(笑)。口は災いの元!
吉原 その時代の泉見さんを見てみたいな(笑)。
岸 ぜんぜんそんなイメージないですよ(笑)。僕も今の自分を否定するわけじゃなくて、他の選択をしたら、に興味があります。たとえば、バスケットボールをやり続けていたらどうなってたかな、とか。
吉原 僕もバスケをずっとやってたんですが、今、役者に挑んでいるのと同じくらいバスケに取り組んでいたら、自分の人生どうなってたかと想像しました。それこそ、体育館が閉まるまでシュート練習して、朝練も出て、全国大会狙って……。
岸 もっとできたんじゃないか、と思うことはありますよね。でも、最終的に戻りたい時代はないと思います! 『扉の向こう側』が言いたいことも「今がすべて」じゃないかと。
吉原 リースも過去を変えますが、「すごく幸せになりました」って話ではなく、失うものもあったりします。演出の板垣さんと話しているところですが、リースの体調が万全ではないことや、リースが何かを負って生きていることなどを表現したいです。アンチテーゼの部分ですね。この三人の役の中では、ハロルドが一番人生が変わったのかも。
泉見 もしかしたら、ですけどね。唯一の救いかもしれません。
――『扉の向こう側』は、11月11~13日の神戸公演に続き、16~23日が東京公演、28日に名古屋公演です。
吉原 がっつり稽古して、兵庫から発進しました。東京発進でないというのは面白いし、今後もどんどんやってほしいですね。
岸 非常によくできた台本ですし、三つの時代を行き来するストーリーに、宝塚の先輩後輩がキャスティングされているのも奇跡的な組み合わせだと思います。男性陣も良い雰囲気で芝居してますので、その空気を楽しんでいただきたいです。サスペンスあり、コメディありですが、最後はほんわかとして感動できる作品です。
泉見 「あの時こんな選択をしなければ」とか、「この選択をして良かった」とか、人生にはいろんな葛藤があると思うんですが、この作品を観たら「やっぱり今で良かったな」と思えます。観終わったとき、また明日も頑張ろうと思っていただければ幸いです。
吉原光夫(よしはら・みつお)
東京都出身。1999年、劇団四季附属研究所に入所、その後数々の舞台に出演する。2007年劇団四季を退団。2009 年、元劇団四季のメンバーと共にArtist Company 響人(ひびきびと)を立ち上げ、演出も手がける。2011年、帝国劇場開場100 周年記念公演『レ・ミゼラブル』において、日本公演の歴代最年少となる32 歳でジャン・バルジャン役を演じる。近年の主な出演作に、『メンフィス』『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』『ザ・ビューティフルゲーム』『レ・ミゼラブル』(ジャン・バルジャン役)ミュージカル『グランドホテル』『ジャージー・ボーイズ』など。今後の出演作は『手紙』(2017年1月)が控える。
岸祐二(きし・ゆうじ)
東京都出身。TV『激走戦隊カーレンジャー』主演で注目を浴びる。その後、舞台や映像で幅広く活動。主な舞台出演作に『レ・ミゼラブル』(2004~2007年アンジョルラス役、2015年ジャベール役など)、『Honganji』『BIOHAZARD THE STAGE』『ネクスト・トゥ・ノーマル』『モンテ・クリスト伯』『三銃士』『ミス・サイゴン』『エリザベート』などがある。声優としても活躍し『ストリートファイター』『世界名作劇場 レミゼ少女コゼット』などに出演。特技のイラストは一見の価値あり。近年の出演作に、『ルルドの奇跡』、『アップル・ツリー』、『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』など。今後の出演作は『ロミオ&ジュリエット』(2017年1月)が控える。
泉見洋平(いずみ・ようへい)
徳島県出身。1990年、映画『ストロベリータイムス4~如月三姉妹の逆襲~』で俳優活動をスタート。以降、TVドラマ、映画、CDリリースやコンサート活動など多方面で活躍。近年の舞台出演作品は、『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』『さよならソルシエ』『SONG WRITERS』『SONG OF SOULS-慶長幻魔戦記-』主演、『ミス・サイゴン』トゥイ役、『シアワセ はありますか』主演、『ニューヨークに行きたい!!』、『陰陽師-Light and Shadow-』主演、『KING OF THE BLUE』主演、『レ・ミゼラブル』マリウス役、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』アルフレート役、『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』など。今後の出演作は『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』全国ツアー公演が控える。
『扉の向こう側』
[兵庫公演]※兵庫公演は終了しています
2016年11月11日(金)~13日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
[東京公演]
2016年11月16日(水)~11月23日(水・祝)東京芸術劇場 プレイハウス
[名古屋公演]
2016年11月28日(月)青少年文化センター アートピアホール
作:アラン・エイクボーン
演出:板垣恭一
出演:壮一帆、紺野まひる、岸祐二、泉見洋平、吉原光夫、一路真輝
※詳細は公式サイトhttps://tobira-no-mukogawa.amebaownd.comをご覧ください。