インタビュー & 特集
萩尾望都原作『エッグ・スタンド』初日開幕レポート
2017年3月1日シアターサンモールにて、劇団スタジオライフの新作、萩尾望都さん原作『エッグ・スタンド』初舞台化の初日の幕が上がりました。舞台の模様をレポートします。
(撮影・文/Yukari Watanabe)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 3/19 UPDATE
『エッグ・スタンド』は、漫画家、萩尾望都さんが1984年に発表した短編作品。初舞台化に先駆け、2月7日には、萩尾望都さんと脚本・演出を担当する倉田淳さんとの特別対談も行われました。(http://test.omoshii.com/news/2017/02/12923/)
対談で語られたように、舞台『エッグ・スタンド』では、いつの時代でも「人間はどう生きるべきか、何をすべきか」を問われ、苦しむ存在であることを突き付けられます。「人は孤独であるゆえに、人を求めなければ生きていけない」萩尾望都さんの作品のテーマが貫かれている作品の1つです。
******
物語は、第二世界大戦中、ドイツ占領下のパリで、横たわる死体をじっと見つめる少年ラウル(Noir松本慎也/Rouge山本芳樹)と、偶然通りがかった踊り子ルイーズ(Noir曽世海司/Rouge久保優二)の出会いから始まります。
「死んでるってどんな気分だと思う?」とルイーズに問いかけるラウル。まだ幼い子供と思ったルイーズは、パンを与えその場を立ち去りますが、後をつけてきたラウルは、そのままルイーズの部屋に住みついてしまいます。ドイツ兵を相手にキャバレーでダンサーとして働くルイーズは、実はユダヤ人の血を引いていて、行方不明の父の生存を信じて、孤独に耐えて暮らしていました。
一方、ドイツ軍のロンドン大空襲により妻子を失い、レジスタンスとなったマルシャン(Noir岩崎 大/Rouge笠原浩夫)は、「自由フランス」の発禁本を発刊しながら、抗独活動を続けていました。テロ騒ぎをきっかけに、マルシャンはルイーズとラウルと運命的に出会います。
ある日マルシャンは、親仏家のドイツ士官ロゴスキー(藤原啓司さん)と接触。パリに住むユダヤ人の名簿「Jリスト」を入手し、彼らを救おうとしますが、ロゴスキーは何者かに殺され、リストも行方不明に。身を隠す必要に迫られたマルシャンはルイーズとラウルの住むアパートメントに向かい、3人の共同生活が始まるのでした。
しかし、ラウルには秘密が……。「生きているのか、死んでいるのかわからない」と話すラウルに、ルイーズは愛情を注ぎますが、その身に危機が迫っていました。
******
舞台美術は、2013年スタジオライフ公演『LILIES』以来、同劇団の代表作『トーマの心臓』『訪問者』等の舞台美術を手掛けた乘峯雅寛さんが担当しています。シンプルな舞台装置は、登場人物を際立たせ、観客はその人物の発する言葉やその目が語る意味、その思いに、自然と寄り添うことになります。ただ1つ、天井には金色のリングのオブジェが、何かを象徴するように存在しています。
公演は、NoirチームとRougeチームによるダブルキャストで上演。
Noirチームでは、平凡に生きるはずだった無垢な少年ラウルの、変わっていくしかなかった現実と葛藤する心の襞を松本慎也さんが真摯に表現。迷い込んできたラウルを大きな愛で包み込むルイーズ役を曽世海司さんが好演し、レジスタンスとして1人の男として、愛を求め、苦しみ続けたマルシャン役・岩崎大さんの演技が共感を呼びました。
Rougeチームは、ラウル役の山本芳樹さんが、人間の中に潜む狂気と、ルイーズとの出会いで心を開いていく自分に戸惑う様を繊細に演じ、時代に翻弄されても明るく希望を失わないルイーズを、久保優二さんが胸が痛くなるような演技で熱演。そして笠原浩夫さん演じるマルシャンの、すべての人間を不幸に導く戦争に絶望し打ちのめされながらも、力強く前を向く姿に魂の救済を願わずにはいられません。
雪の降る寒いパリ、幕切れで語るマルシャンの言葉は、今、この時代だからこそ個々人が考え、答えを出していきたいテーマであると感じました。
公演は3月20日まで東京・新宿シアターサンモール、24日〜26日まで大阪・ABCホールにて行われます。
劇団スタジオライフ公演『エッグ・スタンド』
[東京公演]3月1日(水)~20日(月・祝) 新宿シアターサンモール
[大阪公演]3月24日(金)~26日(日) ABCホール
原作:萩尾望都
脚本・演出:倉田淳
美術:乘峯雅寛
出演:松本慎也/山本芳樹 曽世海児/久保優二 岩崎大/笠原浩夫
藤原啓児 船戸慎士 奥田努 仲原裕之 宇佐見輝 澤井俊輝 若林健吾 田中俊裕 千葉健玖 江口翔平 牛島祥太 吉成奨人
お問い合わせ:Studio Life● 03-5942-5067(12:00~18:00)