インタビュー & 特集

INTERVIEW! 映画『ザ・ダンサー』監督 ステファニー・ディ・ジュースト

19世紀末、光とヴェールによる幻想的なダンスで一世を風靡し、ダンス史にその名を刻んだ舞踊家ロイ・フラーの半生が映画になった。メガホンを取ったのは、本作が映画監督デビューのステファニー・ディ・ジューストだ。(取材・文/高橋彩子、Photo:Masato Seto、Hair&Make up: Naoki Hirayama (Wani))

INTERVIEW & SPECIAL 2017 6/7 UPDATE

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映画『ザ・ダンサー』では、ミュージシャンであり女優としても活躍中のソーコ演じるロイが、デカダンな魅力を放つルイ・ドルセー伯爵(ギャスパー・ウリエル)、彼女の才能を見出したフォリー・ベルジェールのマネージャー、ガブリエル(メラニー・ティエリー)、そしてライバルであった実在のダンサー、イサドラ・ダンカン(リリー=ローズ・デップ)らと出会い、自らのダンスに命を燃やす姿を描く。監督のステファニー・ディ・ジューストに話を聞いた。

ーーこの映画の発端はロイ・フラーの1枚の写真だそうですが、具体的には、写真をご覧になってから映画化を思いついたのでしょうか? それとも、映画を撮るために題材を探している時に写真を見たのでしょうか?

私は以前から写真を撮ったりビデオを作ったりしていたのですが、なかなか映画に挑戦する勇気がありませんでした。ましてや長編だなんて、無理に決まっていると思っていた時、ヴェールに包まれて庭で踊るロイの写真を見て興味を覚え、彼女について調べました。そして、彼女がまだ映画化されていないことを知り、とても“不公平”だと感じたのです。それで取り憑かれたように、映画化に取り組みました。

ーー映像はヴェールがかかっているような幻想的な雰囲気で美しいですね。ロイの踊りをイメージしてのことですか?

有難うございます。フラーの踊りを意識したわけではないけれど、彼女の踊りの詩的な美しさと、ボクサーのような力強さの両方を表現したかったので、自ずとそうなったのかもしれません。撮影を担当したブノワ・ドビーは本来、今作とは少し違う作風の人なのですが、私は彼が持っている才能を別の方向で活かしてみたかった。それでこうしたものができ上がりました。

ーー今作がデビュー作なのに、既にクリエイターの別の才能も引き出そうとなさっているのですね!

映画の魅力とは、作り手も観客も、それまでに感じたことのないような地点に導かれていくことだと思うので、それが実現できているとしたら嬉しいです。実は私がこの映画を作ろうとした時、出資者に、一人の女性と布切れだけで、どうやって撮るのか?と成功を疑われました。けれども私は、CG全盛の現代だからこそ、真逆のことをしたかった。その意味で、ロイ役のソーコに実際に踊ってもらうことがとても重要だったのです。ソーコはダンスの経験がなかったにもかかわらず、2ヶ月間のトレーニングを見事にこなしました。撮影時間が限られていたことも、大きなプレッシャーだったと思います。でも、それを乗り越えることで、彼女は本番前のダンサーが感じるのと同じような緊張感や興奮を肌で知ることができた。映像にもそれが表れています。

ーーソーコのことは以前から知っていたのですか?

彼女が主役を演じた映画『博士と私の危険な関係』(12年・アリス・ヴィノクール監督)などを観て、歌手としてはもちろん、女優としても演技力があって魅力的な人だと感じていました。だから、パフォーマーであるロイ・フラーを演じてほしいと考え、オファーしたのです。私はダンスに特別に詳しいわけではないけれど、ピナ・バウシュなどの舞台を観てわかるのは、ダンスとは、踊り手の人間性やエネルギーを感じさせてくれるものだということ。同じようにこの映画でも、自分を極限状態まで持って行って演じるソーコの人柄やエネルギーを感じていただけるのではないでしょうか。

ーー本作では、幾つかの“対比”が印象的です。これから世界に打って出ようとする上り調子のロイと、没落する退廃的な貴族のルイ。踊り手としては、人工美を追究するロイに対して、ナチュラルな踊りが身上のイサドラ・ダンカン。

おっしゃる通り、ルイは落ちぶれていて未来が見えず、あとは死あるのみ。一方、ロイは常に未来志向ですね。ただ、ロイもルイも自己破壊的である点は共通するでしょう。そんなロイはイサドラと出会い、自分の限界を初めて知ります。なぜなら、イサドラが持っている若さも天性の才能も、ロイが自分にはないと思っているものだから。実際、ロイはイサドラと出会った後、踊るのを止めてしまいます。対するイサドラは、ロイが予見した通り、モダン・ダンスの祖として飛翔していきますよね。つまり、彼らは互いに惹かれ合いながらも“不可能な関係性”にある。私はそうした愛の不可能性を描きたいと考えました。そんな中、唯一、カップルとして成立しているのは、ロイとガブリエル。ロイが常に動き続け、立ち止まって自分を見つめることがない中、ガブリエルだけがロイを見守り、その苦しみや状況を客観的に把握しています。

ーー芸術家と周囲との関係は独特かもしれません。監督ご自身も、この映画を撮影する過程で、似たような状況を経験されましたか?

いいえ、私自身は、ロイほどには(笑)。ただ、この映画の撮影は2回もストップし、完成までに8年もかかりました。初めての長編で、主役のソーコもそれほど高い知名度というわけではなく、経済的にも大変で。だから多くの人に囲まれていたにも関わらず、私がある種の孤独感を味わったのは事実です。それは何かを作る時には必要なことなのかもしれません。そしてロイも、創造のために孤独な闘いを続けた人。そこが私とロイとの共通点です。

ーー遅咲きである点も共通していますね。

確かに。私は今年で40歳ですが、ロイが踊りを始めた25歳という年齢も、ダンサーとしては遅いですよね。そのことが、彼女を苦しめました。

ーーロイはまた、女性解放の先駆け的な存在でもあります。

彼女はまさに、女性解放のシンボルのような女性です。女性がコルセットをつけていた時代に、彼女は裸同然の姿でヴェールをまとって人前に立った。革命的なダンスだったと思います。ロイはまた、舞踊家としてだけでなく、実業家としても、女性史の最先端を行く人物でした。カンパニーを作った彼女は50人以上の従業員を持つ雇い主でもありましたし、ダンスを通じてお金を沢山稼いだという意味では、女性実業家の走りだと言えますよね。そして、ロイはダンス学校を作り、弟子を取った際、自分の踊りを強要することは一切ありませんでした。なぜなら、ロイの踊りはロイにしかできないものであり、それを弟子に強いると弟子が苦しむからです。彼女は弟子に対して、自分自身の言葉で話すように踊りなさい、と教えたそうです。そうした言葉にも、女性解放の意味合いが含まれているでしょう。

ーー舞踊家としてのスタートが遅かった彼女は遠回りし、苦労しましたが、そうした体験が彼女を豊かな人物にしたわけですね?

その通りです。自由を得るには苦しみがつきものだと言われますが、ロイはそのことを体現している女性。映画を通してぜひ、彼女のことを知り、その踊りの世界を味わっていただきたいと思います。

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映画『ザ・ダンサー』
監督:ステファニー・ディ・ジュースト
出演:ソーコ(「博士と私の危険な関係」)、リリー=ローズ・デップ(「Mr.タスク」)、ギャスパー・ウリエル(「たかが世界の終わり」)
原題:La Danseuse/2016年/フランス・ベルギー/仏語・英語/108分
配給:コムストック・グループ/配給協力:キノフィルムズ/6月3日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマほか全国公開

© 2016 LES PRODUCTIONS DU TRESOR – WILD BUNCH – ORANGE STUDIO – LES FILMS DU FLEUVE – SIRENA FILM

 

 

 


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