インタビュー & 特集
INTERVIEW! ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』柚希礼音さん part.1
2000年に公開された映画『リトル・ダンサー』のヒットを受け、2005年にエルトン・ジョン作曲などにより、ミュージカルとして生まれ変わった『ビリー・エリオット』。トニー賞10部門受賞、オリヴィエ賞4部門受賞ほか、全世界で80以上の演劇賞を受賞。2014年には2014年9月28日のロンドン公演のライブ・ビューイングが全国の映画館で公開されたものの、やっとやっとの日本初演となります。ウィルキンソン先生役で出演する柚希礼音さんにお話を伺いました。
(撮影/熊谷仁男 文/小柳照久)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 7/15 UPDATE
■ダブル・キャスト公演について
●実は、配役が発表されるまで、柚希さんが演じるのはオールダー・ビリーだと思ってました。
えーーー(笑) おかしいです、それ。一幕ラストに凄いダンス・ナンバーがある役ですけれど、あれは、大人になったビリーの幻影ですから! 私が演じるのはビリーのバレエ教師となるウィルキンソン夫人です。島田歌穂さんとダブル・キャストで演じます。
●柚希さんと島田さんは、全然違う個性ですよね?
私はダブル・キャストってこれまでやったことがないんです。でも、違うように演じよう、という以前にタイプがあまりに違うから、色んなことを勉強しながら、自分の個性を大切にやっていきたいなと思っています。歌穂さんとは、実はお稽古スケジュールがあまり一緒にならないんです。だから、今現在、歌穂さんがウィルキンソン先生役をどのように作られているのかわからないんです。というのも、歌穂さんが歌の稽古中、私は芝居の稽古していたりと、学校の授業みたいに時間割が組まれているので、稽古場でも廊下でお会いするくらい。歌穂さんがどれだけ素晴らしいかを想像したら恐ろしいですけれど、今は自分のペースで稽古してます。
●そういえば、宝塚時代は、役替わり公演があっても、共演者がダブル・キャストやトリプル・キャストなのを受けて立つ、という立場が多かったですね。
稔幸さんがトップ時代、『ベルサイユのばら』の東京公演のみ、アンドレとベルナールの役替わりがあったくらいですね。6学年上級の立樹遥さんとのダブル・キャストでした。自分のやり方で演じようと思っていたのですが、ずっと一緒に稽古しているので、難しかったです。それで良くなるところもありましたが、「こっちのほうが良いのかな?」と悩むこともありました。今回は稽古前半、役の幹を作るところで、ダブルの相手に会わないという稽古のやり方なので、集中して、自分の役作りができるんじゃないかな、と思ってます。
●柚希さん演じるウィルキンソン先生役はダブル・キャストですが、ビリー役は5人です。
Aパターン、Bパターンという上演ではなく、キャストが公演ごとにシャッフルされるので、稽古場では細かい部分まで作り込んでいます。ビリーは間をもって台詞を言うけれど、ウィルキンソン先生は間髪おかずに言い返すなど、芝居が破たんしないよう、丁寧に調整してます。それでいて、個人の味はプラスしても良いんですけど、動きと台詞の意味と、その時の役の心情は演出家から全部レクチャーを受けてます。
●ビリー役は1000人以上がオーディションを受けたそうですが、その中から選ばれた5人の精鋭たちです。
歌や踊りや芝居だけでなく、タップあり、アクロバットあり。さらに、大ナンバーのソロがあって、一人で歌い踊るなど、もの凄いことが課せられる役です。まずはこの役を演じようとする勇気に感服です。凄すぎる役で、大人だったら萎縮してしまうところ、子役たちはまだ怖い物知らずでパワフルなんですよ。5人にも学年差があるので、上級生の子たちは、公演中だんだん怖くならないように、最後まで伸び伸びと演じてほしいと思ってます。今回は東京で約3か月、大阪で約1か月という長丁場で、千秋楽はなんと11月です!
●柚希さんが舞台の怖さを意識したのはいつ頃からですか?
中学校一年生の頃です。バレエを習っていて、コンクールに出たりしたので、舞台の怖さを実感するのは早かったと思います。あれだけ稽古したのに、本番ではできないっていうことを、クラシック・バレエのコンクールでは目の当たりにしました。宝塚に入ってしばらくはそれを忘れてたんですけど。
●宝塚では初舞台のすぐあと、『グレート・センチュリー』というレビューで、スターがひしめく星組の中で、いきなり大きなソロ・ダンスを披露。センセーションを巻き起こしました。
「時の精」役ですね。東京公演のみだったのと、今のようにCS放送もなかったので、映像が残ってません。東京でご覧になった方の思い出限定。バレエの本番で、舞台に立ち、照明が当たり、お客様が来られたら、稽古していたことができないことがある、という恐ろしさをわかっていたので、「伸び伸び踊る難しさ」は感じていました。
■1980年代、バレエ・ボーイズの黎明期
●『ビリー・エリオット』はたくましい男の子に育てたかったのに「バ、バレエを俺の息子がやる?」とお父さんがショックを受けることで話が始まりますが、柚希さんの場合は「バレエを習わせてた娘が、宝塚で男役になるなんて!」という家庭内での葛藤はあったんでしょうか?
私はバレエが踊りたかったんですけど、家族が宝塚を勧めてくれたんです(笑)。ビリーとは逆です。私は「えー、男役なんて恥ずかしい」というところからスタートでした。ビリーは、バレエを踊る=女の子と、誰もが思う時代の男の子で、お父さんや家族からも「バレエなんて」と突っ込まれているので、いざ「バレエ・シューズを履きなさい」と言われた時は「これ履いたらオカマに見えるかもと気にしたりしてます。
●1980年代、日本もまだバレエ・ボーイズが今ほど一般的じゃなかったです。
私がバレエを習っていた時も、バレエを習っている男の子は珍しい存在でした。
●70年代生まれのバレエ・ダンサーは、バレエを習っていることを秘密にしていたという方、多いですよね。
そう思います。お姉さんたちは「●●ちゃん、●●ちゃん」といじってました。でも、そんな彼らがいきなり海外で凄い人になってて「あの時のバレエ男子たちが海外でこんなに有名な人になってるんだ」と驚きました。当時はあんなに肩身が狭そうだったのに!
●今回の公演でもスタッフになっている、K-BALLET主宰の熊川哲也さんを始め、1970年代前半生まれの男性プリンシパルたちの活躍は目覚ましいものがありますね。海外のバレエ団でも主役を踊るようになりました。最近では、ボーイズ・クラスが人気のバレエ団も増えています。
バレエ男子がもてるんだ、と最近ようやく思うようになりましたが、子供のころは「バレエをやってる男子はどう思われるのかな?」と思ってました。とにかく、踊っている人数が少なすぎて、特に背の高い男子なんてそうそういなかったですね。
●バレエで相手役を踊れる男子がいなくて、宝塚の男役を勧められた、という話もよく聞きます。
私もそうでしたし、そういう人はいっぱいます。でも、この間、東京バレエ団プリンシパルの上野水香さんと共演させていただきましたが、彼女は170cmという長身で、トウ・シューズを履いたら180cm! でも、組む相手がいるんです。今は凄いですね。
(part.2に続く)
[プロフィール]
ゆずき・れおん
1997年に宝塚歌劇団に入団。99年に初舞台を踏み、2009年星組トップスターとなる。主な主演舞台に、『ロミオとジュリエット』『オーシャンズ11』『太陽王~ル・ロワ・ソレイユ~』『眠らない男・ナポレオン‐愛と栄光のはてに‐』など。2015年に『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!』にて宝塚歌劇団を退団。ミュージカル 『バイオハザード 〜ヴォイス・オブ・ガイア〜』『お気に召すまま』などに主演し、女優として活躍している。
[公演情報]
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』
[プレビュー公演 ]2017年7月19日(水)~7月23日(日) TBS赤坂ACTシアター
[東京]2017年7月25日(火)~10月1日(日) TBS赤坂ACTシアター
[大阪]2017年10月15日(日)~11月4日(土) 梅田芸術劇場 メインホール
ロンドンオリジナル・クリエイティブスタッフ
脚本・歌詞:リー・ホール
演出:スティーヴン・ダルドリー
音楽:エルトン・ジョン
振付:ピーター・ダーリング
美術:イアン・マックニール
日本公演スタッフ
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
出演:加藤航世 木村咲哉 前田晴翔 未来和樹 山城力
吉田鋼太郎 益岡徹(Wキャスト)、柚希礼音 島田歌穂(Wキャスト)、久野綾希子 根岸季衣(Wキャスト)、藤岡正明 中河内雅貴(Wキャスト)、小林正寛、栗山 廉(Kバレエ カンパニー) 大貫勇輔(Wキャスト) 他
公式サイト:http://billyjapan.com/