インタビュー & 特集
INTERVIEW!『チック』小山ゆうなさん(翻訳・演出)&柄本時生さん&篠山輝信さん
さえない少年マイクが、風変わりな転校生チックに誘われ、夏休みの冒険の旅に出る。ドイツのベストセラー児童文学であり、世界26カ国で翻訳されて、世界中の人々に愛されている『チック』。その舞台版がこの夏、日本で上演されます。本国ドイツでも大人気を博す舞台を、日本のお客様にどう届けるのか。翻訳・演出を手がける小山ゆうなさん、チックを演じる柄本時生さん、マイクを演じる篠山輝信さんが、作品の魅力を語ります。(取材・文/湊屋一子、撮影/川野結李歌)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 7/28 UPDATE
14歳の夏、少年の世界は大きく変わる
クラスであだ名さえつけられない、存在感のないマイク。出口のない日常の中に飛び込んできたのは、ロシアからの転校生・チック。さして接点のなかった2人が、ひょんなことからぼろぼろの車に乗って、旅に出ることになる。演出の小山はこの作品を日本初演として翻訳・演出するにあたり、何を大事にしているのだろうか。
「世界26カ国で翻訳されていることや、ドイツで舞台化されていることはあまり気にせず、14歳を経た人が共感できる、あの苦い気持ちをまず大事に。そしてドイツ独特の要素を落とさないようにしました。翻訳の段階で実際の中学生に言葉遣いについての意見を聞いたりしながら、14歳の世界を練り上げていますが、稽古の中でも実際に演じる柄本さんや篠山さんが出してくれるアイディアを取り入れて、まさに全員で作っているという感じです」(小山)
旅の中でさまざまな人に出会う2人。一つひとつのエピソードにははっきりとした着地点はなく、それらの体験が糸のように絡み合って、1枚の布を織り上げるように物語が広がっていく。小山はその「すべて着地しないこと」が大切だと考えている。その考えを柄本が、
「演じる側としては、着地するかしないかの違いはあまりなくて、着地しないなら着地しないでもいいし、逆に着地させるならそれもありだと思っています。着地しないように見えることって、何だろう?というのを考えますね」(柄本)
と受けると、篠山は「なるほど!メモ取っておきたくなった(笑)」と目を見張ったあと、
「僕は今、大人だから、読者としては彼らの出会ったことのいろんな意味がわかる。でもその『わかった』という気持ちで芝居しちゃいけないなと思います。マイクが感じたわからなさを、わからないままを演じる。もう良いシーンばっかりなんですよ、この作品。でも良いシーンだな~って自分が感動してちゃダメですから(笑)。ちょっとこう、自分と引き離して」(篠山)
こうした2人のちょっとした発言を、小山が「そう思ってたのか」という表情で聞いている。
「稽古中も、お2人だけじゃなくて全員がいろいろ『ああじゃないか、こうじゃないか』と出してきてくれるし、それでまたみんなが考えて、すごくいい稽古場になってるなと感じています。どんなものを最終的にお客様にお見せできるのか、自分でもワクワクします」(小山)
14歳の旅というと、映画『スタンド・バイ・ミー』を思い出す人も多い。
「『ああいう感じの作品なの?』と聞かれることも多いです。それはそれですごくうれしいと思います。でも映画だからできることがあるように、舞台にしかできない表現もたくさんある。何より劇場の中で一緒に、生で役者とお客様がいる、そのライブ感は舞台でしか味わえないもの。仕掛けもたくさん用意しているので、演劇ならではのことがたくさん起こる舞台になると思います」(小山)
「14歳の物語って、他にもいっぱいある。そういうのを好きな人が世の中にいますよね、その人たちに『それと同じくらい面白いですよ』って言いたい」(柄本)
柄本がいたずらな顔でにやりと笑う。
「俺、最近、いい宣伝文句考えたんですよ。27歳と33歳が14歳を演るんですよ。バカらしくないですか?(笑) それ『ホントかよ?』って思うでしょ? ぜひそのウソを見に来てください!」(柄本)
「いや、もうお客さん(はちゃんと14歳に見てくださること)を、信頼していますから!」(篠山)
かつて14歳だったことのある人なら誰もがなんとなく感じたあの「つまらない日常」を打ち破り、自分の世界がちょっとだけ広がるのを実感する。この夏はチックとともに、マイクが体験した旅を、一緒に劇場で楽しもう。
小山ゆうな(こやま・ゆうな)
ドイツ ハンブルグ生まれ。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。劇団NLT演出部を経てフリーに。アーティストユニット「雷ストレンジャーズ」を主宰する。最近の演出作にシュニッツラー『緑のオウム亭—1幕のグロテスク劇—』(2017年)、イプセン『フォルケフィエンデ 人民の敵』(15年初演、「テアトロ」渡辺保氏の“今月のベストスリー”に選ばれ、16年『国際演劇祭—イプセンの現在』に招聘され再演)、ラティガン『ブラウニングバージョン』(14年)、劇団銅鑼公演・別役実『はるなつあきふゆ』(15年)などがある。
柄本時生(えもと・ときお)
1989年生まれ、東京都出身。2003年、映画JamFilmS『すべり台』(主演/05年公開)のオーディションに合格し、デビュー。以降、数々の映画やTVドラマ、舞台で独特の存在感を放ち活躍の場を広げている。近年の主な出演作に舞台『レミング』(演出:松本雄吉)、『イニシュマン島のビリー』(演出:森新太郎)、『ラヴ・レターズ』(演出:青井陽治)、『ゴドーを待ちながら』(演出:柄本明)、『わらいのまち』(作・演出:宅間孝行)など。映画『映画 深夜食堂』(松岡錠司監督)、『超高速!参勤交代リターンズ』(元木克英監督)、『聖の青春』(森義隆監督)など。TV『初恋芸人』(BSプレミアム)、『侠飯~おとこめし~』(TX)、『増山超能力師事務所』(ytv)など。本年、ドラマ『愛してたって、秘密はある。』(NTV)、映画『花筐』(大林宣彦監督)、『彼女の人生は間違いじゃない』(廣木隆一監督)、『増山超能力師事務所~激情版は恋の味~』(久万真路監督)の公開、舞台『関数ドミノ』(演出:寺十吾)、『流山ブルーバード』(演出:赤堀雅秋)の出演を控えている。
篠山輝信(しのやま・あきのぶ)
1983年東京都生まれ。玉川大学芸術学部卒業。2006年、舞台『ANGEL GATE~春の予感』で俳優としてデビュー。以降、ドラマや映画、CM出演のみならず、テレビ番組のパーソナリティーやタレントとしても幅広く活動している。明るくさわやかな笑顔と誠実な人柄で、NHKの情報番組『あさイチ』のリポーターとしても高い人気を獲得し、Eテレの英語番組『しごとの基礎英語』ではビジネスでも使えるリアルな英語をもとに台本なしのミニドラマに挑戦するなど、さまざまなテレビ番組で活躍中。 主な出演作品は、<舞台>『寝盗られ宗介』、『飛龍伝2010ラストプリンセス』、『女信長』、『abbey アビイ』、<ドラマ>『乙女のパンチ』、『忠臣蔵 瑤泉院の陰謀』、『ダンドリ Dance☆Drill』、<テレビ>NHK『あさイチ』、『どーも、NHK』、『しごとの基礎英語』、NTV『スクール革命』、TX『主治医が見つかる診療所』、BS日テレ『おいでよ!森クミの部屋』ほか。
『チック』
[東京公演]2017年8月13日(日)~27日(日)シアタートラム
[兵庫公演]9月5日(火)~6日(水)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ
上演台本:ロベルト・コアル
翻訳・演出:小山ゆうな
出演:柄本時生、篠山輝信、土井ケイト、あめくみちこ、大鷹明良
※詳細はhttps://setagaya-pt.jp/performances/201708tschick.htmlをご覧ください。
※原作の映画版『50年後のボクたちは』は2017年9月16日(土)公開。http://www.bitters.co.jp/50nengo/