インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『人間風車』成河さん Part1
近所の子供たちの前で自作を語る、しがない童話作家。その童話の登場人物になりきって現れる奇妙な青年が、彼の運命を変えていく――。後藤ひろひと作のホラー『人間風車』2017年新版上演(遊気舎版初演1997年、パルコ版初演2000年、再演2003年)で主人公の童話作家を演じる成河さんに、演劇への熱い想いをお聞きしました。(取材・文/藤本真由[舞台評論家]、撮影/笹井タカマサ、ヘアメイク/山下由花、スタイリング/市川みどり)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 8/6 UPDATE
ジャンルをまたいでいろいろな演劇をやってきたけれど
今回、懐かしいところに還る感覚があります
――脚本をお読みになっての第一印象はいかがでしたか。
すごく懐かしいなという感覚がありましたね。僕は大学生のときに本格的に演劇を始めたんですが、その当時自分の周りにあったジャンル、それに近しいものという感じがしました。劇場は大きくなっているけれども、きちっと小劇場だなというか、小劇場から派生した一つの演劇の形ですよね。ごちゃまぜ感があって、変に高尚的に押し付けがましいところがなくて。僕はその後、ジャンルをまたいでいろいろな演劇をやってきましたけれども、今回、懐かしいところに還るなあという感覚がありますね。
僕が劇団「ひょっとこ乱舞」の旗揚げに参加したのが2001年で、そのころ本多劇場あたりでぐいぐい来ていたのが松尾スズキさんの「大人計画」。「青年団」の平田オリザさんが方法論を先鋭化させていくということを始めたころでした。雑多なものがごちゃまぜにある中から、そうやって方法論を尖らせていく人たちが増えていく、そうなる直前の演劇という感じがするんですよね。言い方に語弊があるかもしれないけれども、おもしろかったらいいんだよ!という感じで(笑)。それは、演技にしても、演技体にしても、いい意味で頭でっかちでないところがあると思います。
――ちなみに、ご自身が演劇を始めたときにやりたかったジャンルは?
「ひょっとこ乱舞」の作・演出・主宰は僕の二つ上の先輩がやっていましたけれども、スタートは野田秀樹さんのコピーでした。当時もう野田さんの「夢の遊眠社」は解散していて、「NODA・MAP」の時代ですけれども。どちらかというと身体的な演劇が好きで、身体表現を訴えていきたいというのがあって。松尾さんがいて、平田さんがいて、日本の演劇史的には割と坩堝(るつぼ)だったんじゃないかという時代ですよね。まあ、日本の演劇ってある意味ずっと坩堝なんでしょうけど、その中でも転換期ともいえる状況の真っただ中にいたなあという印象がありました。それが今の自分を作っているなあとも思うんですよ。本当にいろいろなものを、食い合わせがよかろうが悪かろうが食べてきましたから(笑)。あれも演劇なんだ、これも演劇なんだと思えることがおもしろかった。どのジャンルにも同じように興奮する自分がいて、自分の劇団で興味に任せていろいろやってみたわけです。でも、その感覚って今でもそんなに変わっていないような気がしています。
僕、日本の現代演劇史オタクだったんです(笑)。大学のゼミの卒論で書いたテーマもそうでしたし、扇田昭彦さんの本をゼミで読んでいて、日本の現代演劇の成り立ちというものにすごく魅かれて。だからこそ、何でもやらなきゃだめなんじゃない?という問題意識もありました。
――ここで“正統”という言葉を持ち出すのもまた語弊があるかもしれませんが、いわゆる“正統”ではなくて、何でもやってみようという方向に行かれたということですね?
逆に言うと、どこが“正統”かわからなかったということもあると思います。ちょうど僕たちの世代って、すべてが均等に正統だったと思うので、そういう意味では選びようがなかったですね。じゃあ、一番好きなものは?と問うたとして、それでも僕には選べなかった。どれも全然違って、全部おもしろかった。平田さんも野田さんも好きで追いかけまくりましたし、唐十郎さんの「赤テント」も好きだったし。その上で、じゃあ何か訓練が必要だとなったときに、僕が選んだのが、やはりおもしろかった、つかこうへいさんの「★☆北区つかこうへい劇団」でした。そこで、今まで頭でいろいろ考えてきたことを技術化していく作業を始めたわけなんです。
日本の現代演劇で役者をやるということは、ある意味でソムリエにならなきゃいけないんじゃないかなという気がしています。「一つのことしか語らなくていい」という単純な状況じゃないと思うんですよね。役者として、「現代口語でしゃべるとこうなります」、「唐十郎的身体でしゃべるとこうなります」、と提示したい。なぜそんなことをするかというと、次に新しいことを生み出すため。今ある正統なものをどんどん取り込んでいって、新たなものを生み出す。劇団でやっていたからか、そういう感覚が強くあって、それは今も変わらないんです。新しいものを生み出すって、感性とかじゃなくて、今あるいろいろなものを食材のようにまずは食べ比べてみて、身体に取り入れていって、そこからだと思うんです。
僕ね、法政大学出身なんですけど、東京大学の演劇サークルを観に行って、その集団がおもしろかったからそこで演劇を始めたんですよ。だからこんな感じの理屈っぽい奴らばっかり周りにいて(笑)。それがおもしろかった。そういうふうに演劇について議論していく環境が最初にあったというのが、僕にはすごく役に立ったんだと思います。そこからつかさんのところに行ったら、今度は「何も考えなくていいから、とにかく走って叫べ!」みたいな(笑)。その両極端が、僕の演劇の始まりだったんですよね。
――大転換ですね(笑)。
その通りです(笑)。でも、その両極端は何も別のことじゃないんですよね。同じことなんです。新しいものを生み出すときに、そうやってどれだけいろいろなものを食べてきたかが問われると思います。やるにしても、観るにしても。
ただ、この“ホーム”のなさに絶望したりすることもありますよ、僕。いつもほぼ“アウェイ”な感じがして。まだ食べたことのないものをずっと探していて、「そろそろもういいだろう」と思うときもあります(笑)。
※⇒Part2へ続きます。インタビュー後編はコチラ。
*衣装協力
チェスターコート/OUT AGE(03-3477-8075)、パンツ/GRAND GLOBAL 下北沢店(03-3411-9234)
成河(そんは)
1981年生まれ、東京都出身。大学時代から演劇を始め、これまでさまざまな舞台、テレビ、映画に出演。近年の舞台出演作に『100万回生きたねこ』『スポケーンの左手』『グランドホテル』『エリザベート』『わたしは真悟』『髑髏城の七人』 Season花など多数。ディズニー実写映画『美女と野獣』のルミエール(ユアン・マクレガー)役で初の吹替えを担当するなど幅広く活躍中。第63回文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。2018年デヴィッド・ルヴォー演出『黒蜥蜴』に出演が決定している。
PARCO & CUBE 20th present
『人間風車』
[東京公演]2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝)東京芸術劇場 プレイハウス
[高知公演]10月13日(金)高知県民文化ホール・オレンジホール
[福岡公演]10月18日(水)福岡市民会館・大ホール
[大阪公演]10月20日(金)~22日(日)森ノ宮ピロティホール
[新潟公演]10月25日(水)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
[長野公演]10月28日(土)ホクト文化ホール・中ホール
[仙台公演]11月2日(木)電力ホール
作:後藤ひろひと
演出:河原雅彦
出演:成河、ミムラ、加藤 諒、矢崎 広、松田 凌、
今野浩喜、菊池明明、川村紗也、山本圭祐、
小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次
※詳細はhttp://www.parco-play.com/web/play/ningenfusha/をご覧ください。