インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『人間風車』成河さん Part2
近所の子供たちの前で自作を語る、しがない童話作家。その童話の登場人物になりきって現れる奇妙な青年が、彼の運命を変えていく――。後藤ひろひと作のホラー『人間風車』2017年新版上演(遊気舎版初演1997年、パルコ版初演2000年、再演2003年)で主人公の童話作家を演じる成河さんに、演劇への熱い想いをお聞きしました。(取材・文/藤本真由[舞台評論家]、撮影/笹井タカマサ、ヘアメイク/山下由花、スタイリング/市川みどり)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 8/6 UPDATE
ポエティックな日本語がとても好きなんです
対話とポエムを行ったり来たりしながら
どのようにリアリティを出せるか
――ミュージカルでのご活躍で成河さんを知った方の中には、ミュージカル役者だと思っている方もいらっしゃるみたいです。
いや、それはもうホント、だめですよ! 今ちょうど『子午線の祀り』という木下順二先生の芝居をやっているところですけれども(取材は7月上旬)、木下先生はすでに1960年代、1970年代にジャンル分けの不毛さみたいなことを言っていらして、その問題意識って、昔の人間は当たり前のようにみんなもっていたのに、今は疑問さえ感じていなかったりするわけでしょう。木下先生は、たとえば、「シェイクスピアをやる人間と現代劇をやる人間で、イギリスの役者に違いはない」ということを言っていて。ドラマをやる人間と舞台をやる人間とで棲み分けはない、それが世界のスタンダードなのに、日本だけ何だか複雑な状況になっていると思います。木下先生の時代なら、新劇をやる人は新劇をやる人、歌舞伎をやる人は歌舞伎をやる人、という感じに、特化したジャンルだけをやる“タコツボ化”という状況になっているんですよね。古典劇、現代劇、そしてミュージカルというものが出てきて、そうすると今度はミュージカルしかやらない人たちがストレートプレイと呼び始めて。問題はね、そういう状況に疑問を感じていないということなんですよ。そりゃあね、クラシックを聴きたかったお客さんがヘビメタ・コーナーに来ちゃったら困りますから、ある程度のコーナー分けの言葉は必要だと思いますけど、役者は、どの言葉もしゃべることができなくちゃいけないんじゃないかと思うんです。
――昨年の『グランドホテル』で成河さん演じるオットーを目の当たりにして、ロンドンのウエストエンドでミュージカルを観ているような感覚がありました。そもそもお芝居ができる人が、歌もすばらしく歌える!という。
ああ、うれしいです、そう言っていただけて。もともと僕は演劇より先に音楽があった人間なんですよ。高校生の頃はバンドマンでしたから。もちろん学校の友だちで組んだシロウトバンドですよ。パンク、メロコア、ハードロック、エアロスミスとかが好きで、スティーブン・タイラーの物真似ばっかりしてました(笑)。ミュージカルの音楽とはまた全然違いますけどね。それにミュージカルには、日本語という言語のもつ問題があるから。
今改めて思うのは、日本の現代演劇史が混乱しているのは、言語の問題がある。それははっきりしていると思うんです。日本語という言語がもつ特徴、性質。『子午線の祀り』という芝居に取り組んで、そのあたりの勉強がまた進んだんですけれども、日本語は、書き言葉として非常に優れている。叙事詩に優れているんです。だから対話劇というものが生まれてこなかった。この問題点自体は、平田オリザさんが取り組まれてきたことなんですけどね。それで、ミュージカルがなぜ今難しいかというと、翻訳劇だからです。今後日本でミュージカルを生み出していくためには、この日本語の問題を絶対に解決しないといけない。たとえば井上ひさしさんのように、日本語に最適な音楽劇を作る。もしくは、今時は小学校から英語を学ぶわけですから、原語でやって成立するような商業的な土台を作らないといけない。そうでないと、30年、40年、50年先、今の形では残っていかないと思います。
そういった日本語がもっている対話の難しさは平田さんが突破したわけですけれども、この『人間風車』にしても、この時代の小劇場演劇にはいろいろな日本語が交じっているんです。唐十郎さんの詩の美しさとか、「チェルフィッチュ」の岡田利規さんほど先鋭的な方法論でないにしても口語というものが交じってきている。現代的な笑いが生まれてきている。そして最後は“ポエム”に還っていくという特徴がありますよね。それが最初に言った“懐かしさ”の一つでもあるわけで。『人間風車』にも実はいろいろな日本語が交じっているので、すべてをきちんと使い分けられたら、すごくおもしろくなるんじゃないかなと思っています。この作品が生まれた当初、リアルタイムではまだそんなに整理されていないまま、とにかくおもしろければいいんだ!という勢いで作られていたところもあると思うんです。今改めて日本語の言語の特徴としてとらえていくと、『人間風車』では、童話作家として人と言葉を交わす一方で、客席に向かって自作を語ったりもするので「対話からポエムに移行していくんだな」とか、そういうやりがいを今の自分は感じたりします。いろいろな材料をもっていないとできない作品だと思います。僕はつかさんの劇団の出身者なので、ポエティックな日本語がとても好きなんです。対話とポエムを行ったり来たりしながらどのようにリアリティを出せるか、今自分がもっている材料で取り組むことができるのは本当におもしろいです。対話とポエムって、呼吸からして違うはずなんですよ。その呼吸も、お客さんと一緒に切り替えられたらいいな、という。
完全な善人も完全な悪人もいないわけでしょう
どちらにも揺さぶられながら
実人生を乗り越えられる力をもらえるはずです
――『人間風車』の物語についてはいかがですか。
人間の嫌なもの、見たくないものを見せていくところがありますよね。僕、立ち上げのころから劇団「ポツドール」が大好きなんですよ。観ていられなくて、お客さんが10人くらい途中で帰っちゃったりするという。「ポツドール」にもあるような、グロテスクなもの、見たくないもの、そういうものは何百年も前からあると思うんですが、なぜそういうものが存在するのか? 人はそこにひきつけられたりするのかな?と考えたりして…。
それで最近ふと思ったのが、“訓練”になるんじゃないかなということなんですよ。たとえばこの『人間風車』では、人を恨むわけじゃないですか。人間、生きてたら、恨みますよ。現実でもネガティブなものってたくさん出てくる。それを、この物語の中では現実の自分の代わりに人を恨んでくれるわけですよ、いくらでも。それで、観ているお客さんが、「そんなに恨む? そこまでする?」と思って、自分の生活に立ち返って、自分が恨んでいる人の顔がふっと思い浮かんだときに、「……もういいのかな……」と思えたら、このお芝居は成功なんですよ。そこに、僕がやる意味があるのかなと思う。「人は自分より不幸な人間を見て生きていけるんです」という、つかさんの芝居のセリフを思い出したりして。しょせん人間そんなものだよ、それが本質だよって言いたいわけじゃないんです。そうじゃなくて、演劇があるということは、そのためなんじゃないかなと思って。スカっとする人はそこでスカっとしたっていいし、何かしら自分の実人生と向き合わせてあげられたらいいなと思う。その上では、とことんまでやらないと、作りものになってしまいますよね。物語を、フィクションを通してグロテスクなものを見せていくのは、観ている人の実人生で何か役に立ってほしいから。少なくとも僕はそう思ってやっているんです。僕の場合、役に立ちましたから。実人生でどうにも立ち行かない問題があるなか、演劇を観て救われたこと、助けられたこと、たくさんありました。完全な善人も完全な悪人もいないわけでしょう。そのどちらにも揺さぶられながら、客席にいると、ヒントとか、問いかけとか、実人生を乗り越えられる力をもらえるはずです。「人は自分より不幸な人間を見て生きていけるんです」というつかさんのセリフにある、その不幸を、俺たちがやるから!って(笑)。ある種の優しさですよね。何千年も前から演劇が存在するのは、そういう知恵なのかなって思うんです。
*衣装協力
チェスターコート/OUT AGE(03-3477-8075)、パンツ/GRAND GLOBAL 下北沢店(03-3411-9234)
成河(そんは)
1981年生まれ、東京都出身。大学時代から演劇を始め、これまでさまざまな舞台、テレビ、映画に出演。近年の舞台出演作に『100万回生きたねこ』『スポケーンの左手』『グランドホテル』『エリザベート』『わたしは真悟』『髑髏城の七人』 Season花など多数。ディズニー実写映画『美女と野獣』のルミエール(ユアン・マクレガー)役で初の吹替えを担当するなど幅広く活躍中。第63回文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。2018年デヴィッド・ルヴォー演出『黒蜥蜴』に出演が決定している。
PARCO & CUBE 20th present
『人間風車』
[東京公演]2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝)東京芸術劇場 プレイハウス
[高知公演]10月13日(金)高知県民文化ホール・オレンジホール
[福岡公演]10月18日(水)福岡市民会館・大ホール
[大阪公演]10月20日(金)~22日(日)森ノ宮ピロティホール
[新潟公演]10月25日(水)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
[長野公演]10月28日(土)ホクト文化ホール・中ホール
[仙台公演]11月2日(木)電力ホール
作:後藤ひろひと
演出:河原雅彦
出演:成河、ミムラ、加藤 諒、矢崎 広、松田 凌、
今野浩喜、菊池明明、川村紗也、山本圭祐、
小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次
※詳細はhttp://www.parco-play.com/web/play/ningenfusha/をご覧ください。