インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』SPECIAL SHOW
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』SPECIAL SHOWの上演が決定。
性転換手術の失敗によって股間に「アングリーインチ(怒りの1インチ)」が残ってしまったロックシンガー、ヘドウィグが自らのかたわれを求め、愛を叫ぶ姿を描いたロックミュージカル。オリジナルキャストであり作品の生みの親であるジョン・キャメロン・ミッチェルが来日し、ヘドウィグ役を演じることで熱い注目を集めています。
ヘドウィグに付き従う元ドラァグクイーンのイツァーク役を演じるのは中村 中さん。2008年、山本耕史さん主演の『ヘドウィグ~』に出演して以来、再び同役を演じます。中村さんに今の思いをお聞きしました。(取材・文/大原 薫、撮影/熊谷仁男)
INTERVIEW & SPECIAL 2017 9/15 UPDATE
――中村さんは2008年の『ヘドウィグ~』ツアーファイナル大打ち上げLIVE~「ジョンも来るよ」でジョンさんと共演されましたね。そのときの思い出は?
ジョンはステージの上では縦横無尽でしたよ。私はイツァークの役だったんですが、半分ドラァグクイーンみたいな恰好でやっていたんです。ジョンはその姿を気に入ってくれたのか、舞台上ですごくコンタクトを取ってくれました。特に「アングリー・インチ」のナンバーでは一緒に激しく踊って、ぶつかり合いみたいになって。グラムロックは仲良く演奏する音楽ではないですが、そういうパフォーマンスを仕掛けてくれたジョンに対して私も返して、とても楽しくできました。ジョンがあまりにもかっこいいから一瞬ひるみそうになりましたけどね。
ジョン・キャメロン・ミッチェル
――イツァークはどういう役だと思いますか?
イツァークという役はヘドウィグにとって対になっている役ではないかと思っていて。映画版ではイツァークを女性が演じていることもあって、ドラァグクイーンになりたいと憧れている男性なのか、ドラァグクイーンにはなりたくてもなれない女性なのか、どちらとも解釈できますよね。哲学的な作品だし、いろいろな考え方ができる役なんです。最後、ヘドウィグはイツァークにウィッグを渡して『生きたいように生きろ』と促しますよね。これは相手を認める行為に思えるし、一方で奇抜な衣裳を脱いで裸になるヘドウィグはウィッグがなくても生きていけると自分を認めたんじゃないかとも思うんです。そう考えると、イツァークはヘドウィグと同じエネルギーを持っていないと成り立たないと思いますね。
――今おっしゃった「ミッドナイト・レディオ」の場面でイツァーク自身がヘドウィグの束縛から解放されるのと同時に、ヘドウィグ自身も解放されたのではないかと、見ていて感じるんです。
本当にね。日常でも自分が誰かを認めたり許したりしたときに、気持ちが楽になるというのはありますものね。2007年に演じた時は自分のセクシュアリティをカミングアウトした直後。トランスジェンダーとドラァグクイーンは違うんだけど生きにくさは似ている所があって、どうやって演じたらよいのかということばかり考えていた気がします。10年たって、出来ないこと、変えられないことはある、それでも生きていくしかないと諦めましたね。そこで役を演じる余白というか私の中の余裕が生まれたので、もっともっとイツァークを、『ヘドウィグ~』を愛せるようになったと思いますね。
――今回のSPECIAL SHOWが発表されたとき、中村さんはご自身のツイッターで「11年目の裏テーマ”かたわれさがし”が色濃くなったわけです」と書かれていましたよね。
このSPECIAL SHOWのお話が来る前に準備していたツアーのタイトルが「かたわれを求めて」だったんです。先日まで『ベター・ハーフ』という舞台に出演して、自分の中では歌手と役者という境界線がなくなって来ているのを感じていました。歌だろうが演技だろうが関係なく、(舞台の)板の上にいられることで生きているって思っていて、その感覚を味わっているときにこのお話をいただいて、思わずつぶやいてしまったんです。
――そういう巡り合わせだったんでしょうか?
……でも、人って常に種を蒔いて生きていると思うんです。自分が取った行動が未来を作るというか。見られたくないことも含めて。10年前にイツァークを演じたときから蒔いてきた種とか、これまで歩いて来た道で、その途中で出会った人たちとか、すべての要素とひらめきが今、私をここにいさせてくれているんです。これは自分で作ってしまった運命だと思うし、しかもジョンと一緒にやれるなんて。『骨まで愛して』という歌がありますけど、骨までしゃぶり尽くすつもりでやりますよ。
――しゃぶり尽くせそうですか(笑)?
だって、美味しそうだし。ジョンが日本でパフォーマンスする機会もめったにないですから、すべてを味わい尽くしたいと思いますよ。
――観客の立場としては、そこまでしてらっしゃるところをぜひ見せていただきたいです! さて、さきほど「かたわれ」という言葉が出てきましたが、『ヘドウィグ~』の中では自分のかたわれを探すというテーマがありますよね。かたわれって何だと思いますか?
もちろん始まりはかたわれとなる愛すべき人を探している旅のようにも思うけど、もう一方では自分探しなのかなとも思うんです。自分が成し遂げたい夢や自分を支えている仕事だって自分を象るかたわれだと思います。私だったら歌がそうだし。自分は何者なんだということを考え続けることなんじゃないですか、かたわれ探しって。
――見る方によって解釈はいろいろだと思いますが、かたわれを追い求めていたヘドウィグが最後は、たとえかたわれが見つからなかったとしても自分の足で立とうとする意志の強さを感じるんです。
かたわれをどうやって見つけるかというと、覚悟することでしかないんじゃないかなと思うんです。それが意志ということに通じるかなと思うんですが、自分が覚悟して「こう生きていく」と決めること。そういう自分になれたとき、かたわれが見つかったということになるんじゃないかなと思います。
――なるほど。ジョンさんと中村さんとの共演で今回のSPECIAL SHOWを拝見するのが楽しみです。最後に、皆さんにどういうところを楽しみにしていただきたいですか?
この作品自体に壁を飛び越えるというテーマがあります。生みの親のジョンと日本人の私がイツァークを演じるということで、既に国の壁は越えている。お客様の想像をも越えたものをお見せしたいです。ヘドウィグというドラァグクイーンのおかしみやかなしみ、迫力やキュートさが、グラムロックという魔法に包まれてステージに現れます。頭で考えないで感じてほしいです。音楽をばしゃばしゃ浴びて、愛の素晴らしさを感じてほしいですね。
なかむら・あたる●歌手・作詞作曲家・役者。1985年6月28日生まれ、東京都墨田区出身。シングル「汚れた下着」(06)でデビュー。2ndシングル「友達の詩」(06)で第58回 NHK紅白歌合戦に出場。4thアルバム『少年少女』(10)は第52回 輝く!日本レコード大賞にて優秀アルバム賞を受賞。代表曲は「リンゴ売り」(07)「風立ちぬ」(08)など。最新作はアルバム『去年も、今年も、来年も、』(15)。歌手としての傍ら、AAA、戸田恵子、STARDUST REVUE、岩崎宏美、研ナオコ、八代亜紀など多くの表現者や、舞台への詞・曲提供も行う。また役者として『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(07/演・鈴木勝秀)、『ガス人間第1号』(09/演・後藤ひろひと)、『エドワード二世』(13/演・森 新太郎)、『夜会vol.18「橋の下のアルカディア」』(14/作演・中島みゆき)、『マーキュリー・ファー』(15/演・白井晃)、『ベター・ハーフ』(15/作演・鴻上尚史)、『ライ王のテラス』(16/演・宮本亜門)など様々な舞台に出演。
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」SPECIAL SHOW
10月13日(金)~15日(日)東急シアターオーブ
※10月13日(金)19:00東京追加公演が決定!
10月17日(火)NHK大阪ホール
作:ジョン・キャメロン・ミッチェル
作詞・作曲:スティーヴン・トラスク
演出:ヨリコ ジュン
音楽監督:岩崎太整
出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル/ 中村 中