インタビュー & 特集

INTERVIEW! 『ラストダンス-ブエノスアイレスで。聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』 水夏希さん×SHUNさん

水夏希さんがアルゼンチンのファーストレディ、エビータ・ペロンを演じる『ラストダンス-ブエノスアイレスで。聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』。ミュージカル『エビータ』やマドンナ主演の同名映画で有名なエビータを、石丸さち子さんの脚本・作詞・演出により新たな視点で描きます。公演初日を目前に控えた稽古場で、水夏希さんと振付・出演の大村俊介《SHUN》さんにお話を伺いました。(文/大原薫、撮影/熊谷仁男)

INTERVIEW & SPECIAL 2017 9/27 UPDATE

_DSC1352――約2年半前に『サンタ・エビータ』というタイトルで水さん主演の朗読劇として上演されたものを、今回はストレートプレイとして上演するんですね。
 これはストレートプレイっていうのかしら?
SHUN 歌もダンスもあるし。
 ジャンルを分けがたい作品ですね。元々が朗読劇だっただけに、覚える(台詞の)量は膨大でした。この台詞を覚えたことがまず、すごいと思った(笑)。
SHUN どれだけ頭の容量があるんだろうと思いましたよ。僕には無理(笑)。
 内容としては完全にリニューアルしましたね。最初は私も(脚本・作詞・演出の石丸)さち子さんも朗読劇の亡霊に取りつかれていたんです。あの時は「女」としてエビータの人生を語る、という形でしたから。それが全部台詞を覚えて演じることで、制約が取り払われて一気にぶわーっと風が吹いた感じになった。改めて、エビータのすごさをひしひしと感じました。

――そして、SHUNさんが演じるのは、「デスカミサドス」という労働者階級の人々を踊りで表現する役。
 ほとんど舞台上にいるのに一言しか言葉を交わさないんです。
SHUN 言葉を発さない役なんですよ。
 エビータが愛した民衆を象徴する役であり、大地でもあり。一人でたくさんのものを表現するんですよね。
SHUN そう言われると、ハードルが上がっちゃう(笑)。
 エビータを憎んでいる人たちがいる中でも、エビータはその人たちに負けない強さで民衆と向かい合っている。実際にSHUNさんが民衆を代表して存在していることで、演じ方は全然変わりました。それに、舞台上じゃない空間を使って表現する所もあって、世界観が広がったなと思いますね。
SHUN エビータは賛否両論ある人だと思うけど、実際に同時代でエビータを見たら、どう思うんだろうって考えてしまう。あの時代にこれだけ貫き通せるのはすごいエネルギーだなと思って。
 そう、本当にすごいと思う。
SHUN だから、やっているうちに「(エビータを)守らないと」という気持ちになるなあ。
 なるほどね! 今それを聞いて衝撃だった。デスカミサドスからしたらそういう思いでエビータを支えていたんだ。
SHUN そうそう。
 エビータがデスカミサドスを助けるためにいろいろやっていたのと同じか、それ以上の力でデスカミサドスに支えられたということですものね。民衆一人一人とそういう繋がりがあったと。
SHUN だから、民衆は自分の身を犠牲にしてもエビータを守ろうと思ったと思うな。
 エビータの演説で「ペロンと共に皆さんのために、そして皆さんと共にペロンのために」と言うんですが、本当にそのとおりだったんだなと思いますね。

――SHUNさんは民衆を一人で表現するということですね。
SHUN そうなんです。人形を体にくっつけて人数を増やそうかなと思うけど、そうもいかないから(笑)。
 民衆と一かたまりにして言いますけど、そこには一人一人の人生と生活があるんですね。日々の暮らしの中での救いがエビータだったんだというのが今回、クローズアップされているんです。SHUNさんに出ていただくと決まってからデスカミサドスという存在が描かれ、今回の『ラストダンス』という作品になったと思う。だから、デスカミサドスはとても重要です。
SHUN やばい……(笑)。
 しかも、デスカミサドスはずっと出てますからね。フランス革命もそうですけど、時代を動かすのは名もなき民衆の力なんですよ。そこには一人一人の命と生活があるから。
SHUN 最初はいろいろ考えすぎていたんですけど、最終的には「一人の人間がいた」というふうになればいいと思えるようになったかな。今日はエビータに手を差し伸べてあげたくなるけど、次の日はならないとか、その日によって感覚が違うんですね。だから、その日その日のデスカミサドスでいたいと思いますね。
 (稽古場にあった、舞台美術の小さい祭壇を指さして)私はあの祭壇が大好きですね。SHUNさんの祭壇。民衆がマリア様の祭壇の横にエビータの写真を飾って祈っていたというエピソードが実際にあったんですよ。

――どうしてエビータはそこまで民衆の心を動かすことができたんでしょうか。
 今まで誰も顧みなかった人々に初めて目を向けて、手を差し伸べたのがエビータ。民衆はエビータが生きる力を与えてくれた、と思ったんでしょうね。
SHUN エビータは言葉に嘘がない。だから民衆は「エビータは自分たちのことをわかってくれている」と思ったんじゃないかな。お母さんが子供の目線になって「これはこうなんだよ、こうしたらいいんじゃないかな」と言うみたいに、自分たちと同じ目線になってくれたことに救われたんだと思いますね。
 ああ、デスカミサドス側からするとそうなんですね。タイトルにも「聖女と呼ばれた悪女」とあるとおり、エビータは絶対的なヒエラルキーの中で頂点にいて、「私が民衆に光を分け与えているんだ」と思っていたと思うんです。私もエビータの視点から見ていたから、民衆側の視点を聞くと想像がかきたてられますね。

――SHUNさんから見て水さんはどんな方ですか。
SHUN 今回初共演で、稽古しているのを見て思うのはまず、真面目。
 (笑)。
SHUN 自分がやるべきことを理解して稽古場にちゃんと持ってくるのがさすがだなと思って。最近はもう、エビータにしか見えない。エビータってこういう人だったんだなと思いますね。

――水さんは再びエビータを演じて、エビータについてどう思いますか。
 前回は朗読だったので、「女」がエビータを語るというのがベースだったんです。今回エビータになるというのは想像を絶していました。最下層から国の頂点までたどり着けるエネルギーと執念は本当に計り知れないと思うんです。当時の社会体制の中で、女性が政治に口をはさむというのも、元々彼女の資質にあったのかもしれない。百年に一人現れるレジェンドだったんだと思いますね。

――そういう人を演じるのはいかがですか。
 大変ですよ! だから最後はエビータ頼みで(笑)、エビータの魂に「どうかお力添えください」と呼び掛けています。

――水さんはエビータに対して共感を覚えますか。
 共感はありますね。私が宝塚にいたときは組子のためになること、お客様が喜んでくださることだったらどんな大変なことでも全然苦じゃなかったし、お客様からの歓声で自分もエネルギーをもらっていました。最後のエビータの演説も、私が宝塚を退団するときのパレードと重なるところがあります。エビータとは規模が違いすぎますけど、一つ一つを自分の人生に紐づけていくという作業をしていますね。

――前回と違っているところは?
 今回はSHUNさんが振付や動きを付けてくださったことで、エビータの行動がただのエピソードじゃなくて、立体的な映像としてお客様に届くと思うんです。行動や事実が積み重なっていくことで、自分の身を粉にして民衆のためにやったことがお客様によりダイレクトに伝わるんじゃないかと思います。

――エビータと彼女にまつわる人々を、出演者4人で演じるのも興味深いですね。
 皆で「大変自慢」してますよ(笑)。「僕は着替えるのが大変なんだよね」「私は台詞が大変なんです」とか言って。
SHUN 本当だよね。

――SHUNさんの「大変自慢」は?
SHUN 俺はそんな大変じゃないですよ。
 SHUNさんは台詞がない分、何をやるのも自由じゃないですか。それが逆に「自由が不自由」という感じで大変だったんじゃないかなと思う。
SHUN なんでもありといったらそうだけど、本当に場の空気や重さを感じてやらないと全部が嘘になってしまいそうだから。やりすぎないし踊りすぎない、というのが難しかったかな。
 SHUNさんにオープニングの振りをつけてもらったんですが、ダンスじゃないところが難しい。振りのニュアンスやスピードが芝居になっているから、ただ振りを覚えただけではできないんですね。
SHUN ただ踊るのは簡単だけど、そこに人の感情や背景を出すとなったら、簡単にはいかない。
 存在から醸し出される空気感が必要なんだなと思います。

――では最後に、期待している皆さんにお誘いの言葉をお願いします!
 エビータが命懸けで生きてきた33年を2時間半に凝縮して、キャストの皆さんのエネルギーをお借りして、皆で激動の時代を生きています。お客様にもそのエネルギーを感じていただきたいですね。客席でデスカミサドスの一員になって見ていただいたら、きっと元気になって帰っていただけるんじゃないかと思うんです。

P

水夏希●1972年8月16日生まれ、千葉県出身。元宝塚雪組男役トップスター。1993年宝塚歌劇団入団、2007年雪組トップスターに就任。宝塚歌劇の代表作『ベルサイユのばら』では、オスカル、アンドレなど主要人物4役を演じ、宝塚初の天覧公演の主役も務めた。2010年宝塚歌劇団退団後は舞台を中心に活動中。 2017年の主な出演作品は、ミュージカル・コメディ『キス・ミー・ケイト』、ドラマティカルシリーズVol.1 リーディング『パンク・シャンソン~エディット・ピアフの生涯』、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』など。

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大村俊介 (SHUN)●1975年8月2日生まれ、千葉県出身。高校卒業後、家業を継ぐため板前修業に出る。23歳の時突然踊りたいと思い、仕事を辞めてダンスを始め、今に至る。出演作に『カルメン』スニガ警部役、地球ゴージャスプロデュース公演『星の大地に降る涙』『海盗セブン』、ミュージカル『ラディアント・ベイビー〜キース・ヘリングの生涯〜』『プリシラ』ミス・アンダースタンディング役(それぞれ振付も担当)など。安室奈美恵、倖田來未、SMAP.BENI等多くのアーティストのPV・Liveで演出・振付・出演。振付作品に、地球ゴージャスプロデュース公演『THE LOVE BUGS』、宝塚星組・花組公演『オーシャンズ11』、宝塚星組公演『ロミオとジュリエット』、柚希礼音『REON JACK2』演出・振付・出演 。

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『ラストダンス-ブエノスアイレスで。聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』
2017/9/28(木)~10/9(月・祝)  DDD AOYAMA CROSS THEATER
[作・演出] 石丸さち子
[出演] 水夏希、福井貴一、伊万里有、大村俊介 (SHUN)
[演奏] 渡辺公章(バンドネオン)、大西孝明(ギター)
http://santa-evita.com


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