インタビュー & 特集
『岸 リトラル』小柳 友さん&鈴木勝大さん
2月20日からシアタートラムで開幕する『岸 リトラル』。2014年と17年に上演された『炎 アンサンディ』と同じく、レバノンからフランスへの亡命を経てカナダで活動している劇作家ワジディ・ムワワドさんによる「約束の血」四部作で、第一作目にあたります。『炎』に続き文学座の上村聡史さんが演出を、藤井慎太郎さんが翻訳を手掛けています。『炎』から続投となる小柳 友さんと、上村さん演出作品は初となる鈴木勝大さんに意気込みを伺いました。 ※稽古開始前に行われたインタビューです。(撮影/本多 晃、取材・文/千葉玲子)
INTERVIEW & SPECIAL 2018 2/17 UPDATE
作者ワジディ・ムワワドが伝えたかったこと
――話がさかのぼりますが、改めて、本作に出演が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?
小柳 演出の上村(聡史)さんから「また一緒にやろう」と伺ったときは嬉しかったですね。『炎 アンサンディ』(以下『炎』)の初演、再演を経た上で僕を選んでくださったこと、本当に感謝しています。『炎』ももちろんそうなんですけど、『岸 リトラル』(以下『岸』)のほうが、作者のワジディ・ムワワドさんがやりたいこと、伝えたいことがより強く出ているのかなと感じるんです。だから「この作品を上村さんがどう作りあげていくのかワクワクする」ということも含めて、決まったときは素直に嬉しかったですね。昨年7月に亡くなられた中嶋しゅうさんも、「上村くんで『岸』も上演するべきだ」とおっしゃっていたんですよ(中嶋さんも『炎』に出演)。変幻自在な空間であり、この作品が最も生かされるであろうシアタートラムでまたできることも、すごく楽しみです。
鈴木 僕は2年ほど前に出演のお話をいただいたのですが、その後、『炎』本公演や『岸』リーディング公演を拝見して、少しずつ自分がこの作品に出演するんだという自覚が芽生えてきました。取材などを通じて、小柳さんや共演者の皆さんの心意気を伺うたびに、どんどん気持ちが高まっていきましたね。
――お二人は初共演ですか?
鈴木 はい。初めてお会いしたのは、確か『炎』の楽屋裏でご挨拶させていただいたときですよね?
小柳 そうですね。共演は『岸』が初めてなんです。きちんとお話ししたのも、この作品の取材のときが本当に初めてだったんですよ。取材のあとに共通の友人がいることを知って、少しほっとしました(笑)。
鈴木 僕も、キャスト皆さんのお名前を伺ったときに、この座組に小柳さんがいることを知って安心したんです。このメンバーの中では年齢が近いですし、小柳さんは『炎』を経験されていて、二作品ともに出演する岡本(健一)さんや栗田(桃子)さんとも共演されていたので。頼りにしています!(笑)
小柳 ダメだよ、僕を頼りにしたら(笑)。
物語を爆弾として仕掛ける
――本作は、岡本健一さん演じる父・イスマイルと、息子・ウィルフリード(亀田佳明さん)を軸に展開します。疎遠だった父が死んだという報せを受けて、父を“埋葬”するために、内戦の傷跡が癒えない父の故郷へ旅立つウィルフリード。謎に包まれた父のバックボーンや自分のルーツに迫るというミステリー仕立てな側面もあり、過去に沈黙した人々が思いを託した“手紙”や“歌”や“電話帳”といった手掛かりが登場します。また、『オイディプス王』『ハムレット』『白痴』などのモチーフも絡んで、どこか寓話的に感じられる部分もあります。ウィルフリードは、“歌う娘”シモーヌと共に旅をします。そこに、小柳さん、佐川和正さん、鈴木さん、栗田さんが演じるアメ、サベ、マシ、ジョゼフィーヌという3人の男と1人の女が順番に加わります。メインの役だけでなく、約40役を8人の役者が演じ分けるという面白さもありますが、お二人が『岸 リトラル』という作品に触れたとき、どんな印象を持ちましたか?
小柳 観る人や捉え方によって、無限の可能性を秘めている作品ですよね。シーンごとにセットを組んでしっかりと描いていくこともできそうですし、逆に、素舞台で衣裳も無しでとか、いろんな可能性が考えられます。何が起こってもおかしくない。…ちょっとドキドキする部分もありますが、これを上村さんが演出するんだから絶対に面白くなるなっていうのは、台本を読んだときから思っていました。
――鈴木さんはいかがですか?
鈴木 登場人物たちが置かれている環境や起こっている出来事は、自分の実生活とはすごくかけ離れていますよね。描かれている親子の関係も、なかなか自分が触れ合う環境では想像しづらいです。親が殺されるのを見てしまうとか…。でも、台本を読んだりしていると、確実に自分とリンクする部分があるんです。親に対しての感情であったり、そこから自分の中に生まれる不安だったり。自分のルーツを知りたい、自分の物語をどこかに沈めたい…そういう気持ちの部分では、すごく共感できるところがあります。だから、複雑な構成ですが一気に読み進めることができるし、興味を持って「この世界のことを知りたい」と思うことができる。そういうふうに作品と自分がリンクする部分を糸口にして、稽古を通して自分の中にしっかりと落とし込んでいきたいですね。
――小柳さんもご自身とリンクする部分がありますか?
小柳 あります、あります。ウィルフリードが、自分はなぜ生まれて、なぜここにいて、なぜここまで生きてきたのか…っていうのを探る気持ちはすごくわかりますし、台本を読んだときに、僕も自分の人生を振り返ってみたくなりました。この作品では、ルーツをたどるだけでなく“自分の物語を伝えていく”ことも重要なポイントだと思うのですが、もし自分以外の人に僕の物語を伝えようとしたとき、「俳優・小柳 友の人生ってどうだったかな?」って。『炎』もそうでしたし、この『岸』もそうなっていくと思うんですが、小柳 友という物語の重要なエピソードに入ってくる作品なんです。俳優じゃなかったらありえないくらい芝居と自分がリンクしていく、すごい経験をさせていただいています。だからこそ、ここからもっともっと役者として深めていかなきゃいけないですし、本当に面白い人生だなって。
鈴木 (深く頷く)。
小柳 それと、『岸』のセリフで、“物語を爆弾として仕掛ける”という…それって本当にすごいことだなと。そうすると戦争が止まる可能性があるかもしれないんだよな、って。…誤解を恐れずに言えば、戦争ってすごく矛盾していると思うんです。どこかで誰かが儲けているからやっていると言う人もいますよね。それを「いけないことだ」と伝えたところで、自分だって、間接的に関わってしまっているかもしれないじゃないですか。…これは、本当に複雑なことだと思うんですが…。その矛盾というのは、物語を伝えていかなければ止まらないことだから。だからこそ自分たちには“伝えていく”意味があるし、この作品をやらなきゃいけないと思うんですよね。
親子の関係で“傷”を負っている息子たち
――お二人と佐川さんが演じるアメ、サベ、マシは、まさに、ウィルフリードと共に伝えていくことを担う“息子たち”です。稽古前の時点では、アメ、サベ、マシという役柄についてどう捉えていますか?
小柳 うーん、本当に難しい存在だなと思います。
鈴木 難しいですよね。ウィルフリードもアメ、サベ、マシも、みんな何かしら親子の関係の中で“傷”を負っているんです。生傷のままの場合もあれば、かさぶたになってまた開きかけている傷口もある。痛みに気付いている者もいれば、気付いていない者もいる。その傷が癒えるものなのか、治そうとしているのかどうかもわからないけれど、“傷”があるからこそ、何かしら目的が生まれて旅をしているんですよね。僕が演じるマシは、父親を知らず、両親ともにいなくなってしまって、自分のルーツもよくわからず、「どうして生きているんだろう?」という状況の中でもがき苦しんで生きている。彼の“傷”というのは何なんだろう?と日々稽古で突き詰めていって、本物の“傷”にしていかなければと思います。
小柳 僕はこのアメという役がすごく好きなんですが、彼はどうしても暴力的になってしまう部分があると思うんです。それって、自分が抱えているものをどう吐き出すかっていう吐き出し方の選択で、「ああ、彼の場合はこうするんだな」と。僕自身にはない部分だから、彼をちょっとうらやましく感じる部分もありますね。稽古を経てどんな人物になっていくのか楽しみです。それと難しいのは、現実と幻想が入り混じるような難しい構成の作品なので、実際に演じるときに、どこまでリアル感を出すのか。アメ・サベ・マシは、ウィルフリードの冒険のパーティメンバーが増えていくように、出会ってすぐに次々と仲間に加わるんですよ(笑)。
鈴木 そうそう(笑)。
小柳 人と人が出会ってそこで生まれるものを、どこまでリアリティをもって表現できるかっていうのは、これはすごく難しいと思うんですけど。
鈴木 今回、どうやってシーンが重なっていくのか、(稽古前の段階では)想像がつかないんですよね。『炎』を観たときも、大きな舞台転換があるわけではないし、暗転もない、わかりやすい道具があるわけでもないんですが、次々と世界は変わるし景色も変わって見えることに驚きました。
小柳 お客さんから観ると、けっこうすんなり(物語の世界に)入っていけるんですよね。
――本番ではどうなるかわかりませんが、『岸』の台本を読む限りでは、「この人物とこの人物は現実に同じ空間にいるのか」「見えているのか」「いつからそこにいたのか」といった不思議な場面もけっこうありそうですね。
小柳 そうですね。例えば、ウィルフリードの傍らには、空想上の親友・騎士ギロムラン(大谷亮介)がいたり、「え、死んじゃうんだ」「あ、やっぱり生きてるのかな?」みたいな、すぐには呑み込めないようなシーンがあったり。
鈴木 そうですよね、実際に演じるとどう見えるのか。台本を読み返すたびに以前とは違う考えが生まれてくる、どこまででも解釈を深めていける作品なので、稽古を経て本番を迎えたときに自分がこの作品をどう捉えているか、想像がつかないですね。そこも含めて楽しみです。
――ありがとうございます。最後に、お二人ご自身のことも伺います。初めて舞台に出演した頃から現在までで、改めて、自分が変化あるいは成長したと感じることはありますか?
鈴木 最近の話になるのですが、2016年は4本続けて舞台をやったんですが、昨年は11~12月の『何者』だけだったんです。1年くらい期間が空いたことで、改めて、舞台をやり始めたときに感じていた、同じ演目を繰り返すことの難しさを感じましたね。毎日毎日、何を守って、何を自分の中で変えていかなきゃいけないんだろう、と。毎朝、「今日の自分は昨日の自分とは違うんだな」って当たり前のことに気付いちゃうし、その日その日の自分の心持ちって、ささいなことで変化しますよね。同じセリフを聞いても違って聞こえますし。舞台は目の前で役者が演じるのが醍醐味だから、毎回新鮮であるのは必要なことなんですが、でも一方で、何十回も同じことを繰り返さなきゃいけない。真逆のことを毎日続けるのって本当に難しいなと、改めて実感しました。舞台は、自分のベストな芝居を1回やりきって終わり、にはできないので。かといって、「今の良かったな」と思った芝居をなぞるのもそれは違うし。やっぱり、どこまでいっても難しいこととしてあり続けるんだろうなと思います。
――小柳さんはいかがですか?
小柳 初めての舞台は23歳くらいだったかな(『家康と按針』)。ロンドン公演もあってすごく良い経験をさせていただいたんですが、初舞台なので右も左もわからず、しかも海外演出家の作品で、あっという間に終わってしまったんです。自分の中で「何で舞台をやっているんだろう」と漠然と思っていて。でも、2015年に兄貴(小柳 心)と二人で芝居をやり始めてからは、芝居が終わって帰り際に、「本当に面白かったよ」ってその場でお客さんが変わっていく様子を感じられるようになったんです。『炎』や『岸』もそうですが、その芝居を観たことで、その日劇場に来たことで、何かしらその人に変化が起きている。それを僕は見たいんだなって。だから芝居を続けてるんだなって思うと、それはすごく幸福なことです。毎日板の上に立てることは、本当に幸福なこと。だからこそ、命をかけてやらなきゃいけないと思います。
小柳 友(こやなぎ・ゆう)
1988年生まれ、東京都出身。テレビ、映画で数多くの話題作に出演した後、舞台へも活動の場を広げる。2008年、映画『トウキョウソナタ』(監督:黒澤 清)にて、高崎映画祭最優秀新人男優賞受賞。 出演作に、映画『がじまる食堂の恋』(監督:大谷健太郎)、『アオハライド』(監督:三木孝浩)、『ANIMAを撃て!』(監督:堀江貴大)、舞台『家康と按針』(演出:グレゴリー・ドーラン)、『非常の人、何ぞ非常に~奇譚 平賀源内と杉田玄白~』(作・演出:マキノノゾミ)、『BENT』(演出:森 新太郎)、『すべての四月のために』(作・演出:鄭義信)など。15年から、作・演出・出演を自らが行うユニット 「Gus4」を兄弟で立ち上げ二人舞台にも挑戦している。
鈴木勝大(すずき・かつひろ)
1992年生まれ、神奈川県出身。2009年「第22回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」準グランプリを受賞。舞台『Ever Green Entertainment Show』でデビューし、12年スーパー戦隊シリーズ『特命戦隊ゴーバスターズ』(EX)で主役の桜田ヒロムを演じ、ドラマ初主演を果たした。以降、ドラマ『妄想彼女』(CX)、『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(NTV)、舞台『シブヤから遠く離れて』、『何者』、映画『帝一の國』、『一礼して、キス』などの作品に出演。
『岸 リトラル』
2018年2月20日(火)~3月11日(日)シアタートラム
作:ワジディ・ムワワド
翻訳:藤井慎太郎
演出:上村聡史
出演:岡本健一、亀田佳明、栗田桃子、小柳 友、鈴木勝大、佐川和正、大谷亮介、中嶋朋子
※詳細はhttp://setagaya-pt.jp/をご覧ください。