インタビュー & 特集
ミュージカルのセットで寄席!? 日本一チケットの取れない講談師・神田松之丞さんらのスペシャルな催し!
omoshiiに、今一番チケットの取れない人気講談師・神田松之丞さんが登場! 実はミュージカルファンにも耳よりな特別企画があるということで・・・今回お話をうかがいました!(取材・文/湊屋一子、撮影/熊谷仁男)
INTERVIEW & SPECIAL 2018 8/17 UPDATE
この夏、京都劇場で上演されるミュージカル「FREE TIME, SHOW TIME 『キミの輝く夜に』」。そのセットをバックに日本の話芸を披露する特別企画が「FREE TIME,SHOW TIME寄席」だ。上方落語の桂吉弥、江戸落語の春風亭一之輔、そして講談師の神田松之丞が出演する。
講談の面白さを伝える機会とあらば、
とんでもないアウェーもひっくり返す
神田松之丞といえば、今、日本一チケットがとれない講談師である。しかし世間的にはまだ「誰、それ?」という人の方が多い。それは世間一般はもちろん、伝統的な日本の話芸を好む人であっても、講談を聞く人が圧倒的少数派だからだ。そんな中で、松之丞は最近テレビに出るようになってきた。その一つが4月7日に放映された「ENGEIグランドスラム」だ。出演者の中で、和服で登場したのは立川志らくと神田松之丞のみ。観客はお笑い好きとはいえ、10~20代女子がメインという、講談師にとってかなりのアウェーな状況で、「宮本武蔵」の一席を演じ、強烈なインパクトを残して高座をおりた。
「メールでオファーをいただいたとき、ちょうど瀧川鯉八という、とても僕が尊敬している先輩と旅先にいたんです。『こういうオファー来たんだけど、兄さん、どう思う?』ってきいてみたら『それ、もう、すぐ跳ねるから、出た方が良いよ』と言われたんで出ることにしました。7分でやってくれって言われて、超一流の漫才師の方がたくさん出てきて、その中で7分て、相当アウェーな状況なんですけど、前に円楽師匠がこの番組に出て相当にバズってたんですよ。とんでもなく評判になってたんで、これは講談のためにも出た方がいいと。でも逆に失敗すると講談に迷惑かけちゃうんで、まあ僕が講談界を背負ってるわけじゃないんですけど、僕が今のところ講談界では露出が多いんで、だから責任感じながらですが出ることにしまして、じゃあ7分でアウェーでどんだけ爪痕残せるかって考えたんです」
番組を盛り上げるために、『バンバン笑ってください』と指示されている観客を前に、松之丞は彼らを“笑わせないようにしよう”と考えた。
「テレビって、落語や講談の魅力の10分の1も伝わらないメディアだと思うんですよ。空気感をつくるとか、想像の芸なんで、画面通すとなかなか伝わらない。だからここはもう迫力で押そう、笑わせないようにしようと決めていきました。あの中で僕だけが笑いで押してないんで、うまくいったらある意味おいしい。誰も笑わせずに話に引き込んでいけたら最高だなと。青くさい芸でしたけど、あの7分で人に効果与えるならあれしかないと思いましたね」
その結果はネットで検索してみてほしい。放映後、『講談って何?だったけど、すごく面白かった』『続きがものすごく気になる!』『神田松之丞ってすごい!』等々、熱量の高いコメントの嵐が吹き荒れた。まさに松之丞の狙い通り『講談って面白い、すごい』と、たった7分で世に知らしめたのだ。
「すげえ面白い!」と素直に喜ぶ、
10代20代を呼び込むのも役割
ちなみに松之丞は独演会、寄席を含め、年間で500席以上の高座を務めているという。
「僕なんかまだ少ない方で、900席以上っていう師匠もおられますよ。最近寄席にもお客様が増えてきて、本当にありがたいことだと思っています。落語とか古典の話芸のすごさに、10代20代が気づいてくれて、すごく純粋に見て『すげえ面白い』ってきいてくれる。入り口は漫画の『昭和元禄落語心中』とか、少し前の、ドラマの『タイガー&ドラゴン』とかで、特に『タイガー&ドラゴン』はすごく大きかったですね。あとはダウンタウンの松本(人志)さんとか爆笑の太田(光)さんとか、伊集院(光)さんとか、著名で面白いとされている人たちが、『古くさい』と言わず『面白いよね』と言ってくれて、それをきいた人が高座を聞きにきてくれてやっぱり面白いねとなってます」
前述の通り、松之丞の独演会チケットは即日完売がほとんどで、松之丞の高座を見たくてもいまやチケットが手に入らない。そうしたチケット難民は、松之丞が出演する寄席に流れていく。
「おかげさまで、師匠(神田松鯉)の怪談なんかも満席で、立ち見も出て、来てくださった方が『松鯉の怪談、面白かった!』って言ってくださって、またお客が増えるという、良い流れだと思います。落語家に比べて、講談師って10分の1くらいしか人数いないんですよ。その中でお客を呼べる“呼び屋”がいなくて、今、僕が呼び屋を一人で担っているんですけど、聞かせ屋っていうすばらしい先生方はほんと、たくさんいるんで、僕は『ここに、こんな素敵な人たちがいますよ』って、動線引っ張っていくのが、今の役割かなと思っています」
無から想像する楽しみに、
演劇ファンならきっとはまる
今回の「FREE TIME, SHOW TIME寄席」も、そうした“今まで講談を知らない客”を呼び込む一つの試みといえるだろう。
「せっかくミュージカルの舞台の合間にやるんで、出来ればそのミュージカルファンのお客様に見に来ていただけたら良いなと思います。なんか『古典って、いろいろ知らないとわからないんでしょ』とか、『着物を着てこないとダメなんでしょ』とか、間違った先入観をお持ちの方が多いんで、そんなことないんですよと言いたいです。寄席へ来ていただければわかると思うんですけど、演劇に比べてぬるいんですよ、ホント。それにチケット代が安くていろいろ見られてお得なんで。無から想像する楽しみがあって、一度はまったら抜けられなくなる奥行きの深さが、落語や講談にはあるんです。だいたい、演目もその日にお客様の顔見て決めるというゆるさ! 独演会とかだと、まあ先に『これやりますよ』と決めることもありますけど、その日にその場で何やるか決める演劇ってないじゃないですか。この『FREE TIME, SHOW TIME寄席』も、たぶんその日に演目決めると思いますんで、お客様は『私たちの何を見て、この人はこの演目にしたんだろうな?』って考えるのも面白いですよ。ふらっと予備知識もなく来ていただいて楽しめる芸ですんで、ぜひ『なんか講談って面白いらしいよ』くらいの軽い気持ちでお越しください」
神田松之丞(かんだ・まつのじょう)
1983年、東京都生まれ。2007年、三代目神田松鯉に入門。2012年、二ツ目昇進。2015年「読売杯争奪 激突!二ツ目バトル」、2016年「今夜も落語漬け」3分講談、「真冬の話術」で優勝。2017年3月「平成28年度花形演芸大賞」銀賞受賞。2016年、NHKEテレ「SWITCHインタビュー達人たち」、2018年、CX「ENGEIグランドスラム」など、テレビ、ラジオにも多数出演中。近著に、松之丞自身が初心者にも面白くわかりやすく講談の魅力を解説する、必見の入門書『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)がある。
<公演データ>
『 FREE TIME,SHOW TIME 寄席』
2018年8月20日(月) 13時開演 京都劇場
撮影:橘蓮二
料金:
3,800円(全席指定・税込)
出演:
桂吉弥(落語)
春風亭一之輔(落語)
神田松之丞(講談)
&
佐山雅弘(ピアノ)
お問合せ:
パルコステージ03-3477-5858(月~土 11:00~19:00/日・祝11:00~15:00)