インタビュー & 特集
INTERVIEW! 『がんぜない瞳の殺人者』野村宏伸さん
NOMUZUプロジェクト 第1回公演 『がんぜない瞳の殺人者』で8年ぶりの舞台出演を果たす野村宏伸さん。実在した死刑囚と彼と獄中結婚した女性との愛を軸に、その人生を描く物語。この難役に挑戦する野村さんにお話をうかがいました。
(取材・文/臼井祥子)
INTERVIEW & SPECIAL 2012 4/11 UPDATE
●野村さんにとって8年ぶりの舞台で、実在した死刑囚を演じられるということですが、このテーマになさったのはどんな理由があったのでしょうか。
演出と脚本を担当する伊藤(和重)さんとは僕は以前から知り合いなんですが、今回の企画は彼が「いつか機会があればやりたい」と温めていたものです。昨年僕が独立したので「このタイミングで、できたらいいね」という話になって、ふたりでシアターグリーンに出向いて交渉して、上演させていただくことになりました。
舞台では名前は変えますが、僕が演じる死刑囚は実在した人物です。未成年で連続殺人事件を起こして死刑判決を受け、獄中で勉強をして小説を書き、賞を取り、彼の本を読んで感銘を受けた女性と結婚もしました。舞台では、はたして死刑という制度が正しいのか、ただ死刑にすればそれが答えになるのか、という問題にも踏み込んでいきます。
でもメインテーマは愛の話です。好きな人が殺されるということはどういうことなのだろうか。それは被害者の周囲に人にとってもそうですが、彼の妻になった女性にしてもそうなんですよね。伊藤さんが、彼女のインタビューをテレビで見たのですが、「言い表せないくらいでかい人だ」と言っていました。一度も手を触れたこともない人を好きになるってどういうことなんだろう。彼が死んだ今も思っている、それはどういう愛なんだろう。
彼は家族から愛情をもらえずに生きてきた。親に捨てられ、兄にいじめられて…。そういう犯罪にいたるまでの背景も描きたい。でも「だから彼は悪くないんですよ」という話ではないです。
●役作りはどんなふうになさっていますか。
死刑囚になった経験はもちろんないので、とても難しいですが、形よりも気持ちを彼に近づけていくことを心掛けています。彼の生き方、台本に書かれていない部分を、彼の小説や詩を読んで想像しています。ただの悪ではなかった、純粋な心を持っていたんだということが、伝わってくるので。
台詞を口にするというより、相手の話をちゃんと聞いて、正直な気持ちでそれにこたえるという、そういうオーソドックスなことをきちんとやりたい。だからもしかすると、幕が開いてからも僕の芝居は毎日違ってしまうかもしれない。それくらい新鮮な気持ちで演じたいです。まだ稽古が始まったばかりなので全然固まっていないですが、とてもいいものにできるんじゃないかという予感がします。
●8年間舞台に立たれず、今、舞台に立つことになったのは、何か理由があるのでしょうか。映像のお仕事と舞台では、演じられていてどんな違いがありますか。
ずっとやりたかったけど、たまたま縁がなかったんですよ。8年はあっという間でした。もしできたらこれからは1年に1回くらいは舞台に立ちたいですね。
映像と舞台の仕事には、そんなに大きな違いはないです。でも舞台のライブ感は映像にはないもの。舞台って始まったらストップできなくてどんどん進んでしまうでしょう? お客さんも毎日違うから反応も空気も違う。それが伝わってくるのが面白いですね。舞台はお客さんがいて初めて完成するんですよね。特に今回のシアターグリーンは客席とステージが近いので、お客さんの本当にすぐ目の前で芝居をすることになります。怖いけれどとても楽しみです。
映像作品はシーンごとに撮影します。そういうカットを割っての芝居も面白いんですよ。だからこれから、映像と舞台をいいバランスでできたらと思います。
●最後に公演に向けて、意気込みをお願いします。
昨年の震災で、生と死について考えさせられた方は多いと思います。今、こういう時代だからこそ、僕も生きることと死ぬことの意味を考えたい。人間が生きていくのに何が必要なのか。お金持ちだけが幸せなのか。自分にとって幸せってなんだろう。そんなことを考えながら毎日稽古に取り組んでいます。
この舞台は愛の物語です。人を愛したことのない二人が出会って、愛する人を見つけられた。犯罪を正当化することはできません。でも、悪いことをしてしまっても、人を愛しちゃいけないということはないんですよね。人それぞれ立場の違いもありますし、簡単なことではないですが、この舞台が大事な何かを見つめ直すきっかけになればと思っています。
[プロフィール]
野村宏伸
のむら・ひろのぶ
1984年、映画『メインテーマ』で、オーディションで選ばれてデビューし、日本アカデミー賞新人賞を受賞。以後、『教師びんびん物語』『キャバレー』など数多くのドラマ、映画に出演する。1999年『太陽と月に背いて』で初舞台。最近の主な仕事は映画『津軽百年食堂』ドラマ『正義の証明』『アスコーマーチ』『新撰組血風録』など。
公式サイト●http://hironobu-nomura.com/
[公演情報]
NOMUZUプロジェクト 第1回公演 「がんぜない瞳の殺人者」
2012年4月24日(火)〜5月6日(日) シアターグリーン BOX in BOX THEATER
脚本・演出:伊藤和重
出演:野村宏伸、長谷部優、伊藤弘子、喜多條士、田中章、椙本滋、松本ちえ、瀬畑茉有子、花井理央、花莉、蒲公仁、佐藤晃、伊藤和重
問い合わせ(メール):アリー・エンターテイメント nomuzu@alii-inc.co.jp
http://alii-inc.co.jp/event/next-stage/nomuzu1/