インタビュー & 特集

INTERVIEW! 金森穣さん×Noism  

6月に公演が迫った見世物小屋シリーズ3部作完結編『Nameless Voice~水の庭、砂の家』について、舞踊家・金森穣さんにその意気込みと、結成9年目を迎えたNoismへの思いを伺います。(取材・文/仲野マリ)

INTERVIEW & SPECIAL 2012 4/13 UPDATE

20世紀バレエの巨匠・モーリス・ベジャールに師事し、その後NDTⅡなど世界を活躍の場としてきた舞踊家・金森穣さん。2004年からは、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館の舞踊部門芸術監督として劇場専属舞踊団Noismを率い、新潟から世界へ発信を続けています。
3月30日にNHKホールで行われた『NHKバレエの饗宴2012』で上演したNoism1の『solo for 2』では、圧倒的な身体能力の追求と世界観でNoism初体験のバレエファンたちの心をわしづかみにしました。
今回は、6月に公演が迫った見世物小屋シリーズ3部作完結編『Nameless Voice~水の庭、砂の家』について、金森さんにその意気込みと、結成9年目を迎えたNoismへの思いをお聞きしています。

――まずは、「見世物小屋シリーズ」という、名前もショッキングなこのシリーズにこめた思いをおしえてください。第1弾『Nameless Hands~人形の家』で圧巻だったのは、人形とそれを操る黒衣との緊張感や主従の入れ替わり、特に操られていた人形が意思を持ち始めるところでした。

私の舞踊を突きつめていくと、「人形」「娼婦」「生贄(いけにえ)」の3つに集約されていくんです。それを展開する劇的構造として、支配人がいる「見世物小屋」という空間を考えた。閉ざされた空間で、すごい至近距離で、ある出来事が繰り広げられる。言ってみればすごくプライベートな、支配人の妄想っていっても過言ではない世界ですね。『Nameless Hands~人形の家』では、その中でも特に「身体の人形性」ということを追求しました。

見世物小屋シリーズ第1弾『Nameless Hands~人形の家』(再演・2010年) 撮影:村井勇(Isamu MURAI)

――第2弾の『Nameless Poison~黒衣の僧』では、会場に流れている音楽と演じている舞踊家たちが聴いている音楽が異なるという試みに、驚いた観客が多かったようです

『Nameless Poison~黒衣の僧』は、チェーホフの小説「黒衣の僧」「六号病室」がベースになっています。第1弾の『Nameless Hands』が、支配人という個人の思い、人形を通じての内なる妄想であるのに対し、『Nameless Poison』では1人の人間に対する相手の人間、「人形」ではなく「人と人」との関わりを描きました。他人と関わるときには、相手が何を思っているか読めないときがありますよね。それを、隣りにいても「異なる音楽」を聞いて動いているために起こるすれ違いや無理解として表現し、その痛みを『Poison』ととらえたのです。

見世物小屋シリーズ第2弾『Nameless Poison~黒衣の僧』(2009年) 撮影:村井勇

――第3弾は『Nameless Voice~水の庭、砂の家』。「見世物小屋」シリーズの集大成として、どのような仕掛けがあるのでしょうか?

「完結編」となっていますが、全体をまとめる、という意識は全然ありません。逆に、第1弾、第2弾がホップ、ステップで、最後にジャンプ!と飛躍する感じ。社会のありようとか、この星が抱える問題とか。この先があるとしたら、もう宇宙しかないなっていうくらい、バーンと飛躍してます(笑)。
そうですね、集大成としては、個の心の問題から始まって、人との出会い・人との関係性に進み、そして今度は自然との関係に着目する。どんどん広がっていく感じかな。

ただ『見世物小屋シリーズ』としてのコンセプトである「至近距離」「閉ざされた空間」は、そのままです。繰り広げられる出来事を「体感する」という見せ方は、扱う題材が飛躍しても変わらない。
なぜかといえば、「テーマが自然」と言っても、自然そのものではなく、自然と対峙したときの「人間」を描いているからです。だから、問題はどんどん内面へと入っていきます。

仕掛けとしては、『Voice』=「声」ですね。いわゆる「声」と呼ばれるものを、情報としての音としてとらえたいな、ということがあります。『Nameless Poison』では音楽の流し方が実験的だったわけですが、今回は、「声」のありように着目しています。たとえば、体から自然に出る呼吸音だったり体が擦れる音だったり、そういうものも、「声」ととらえて表現していきます。
また、様々なものがボーダレスになった現代、演劇と舞踊の間も含め、あらゆる溝に流れる水の音にも耳を澄まそうと思っています。

――『Nameless Voice』は、Noismのメンバー全員にアンケートをとって、それらをもとに作られたということですが、それをやろうと思ったきっかけは? 

個をみつめた『Nameless Hands』では、自分が台本を書きました。人と人との関係を描いた『Nameless Poison』は、チェーホフという作家が書いたものをもとにしました。今回、対象は「自然」あるいは「社会」。もっと飛躍して、容易に言語化できない、どうすることもできない事象に取り組もうとするとき、私1人で立ち向かったところで限度があるというか、逆にもっと多角的にみんなの視点というものを形にすることでしか、今この星にある人間のありようというのは表現しきれないのではないか。そう思ったんです。

そこで、メンバー1人ひとりのさまざまな記憶とか体験談というものを聞き、10人いれば10人の、人と人、人と自然、人と社会という多角的な関係性から、舞台を考えていくことにしました。
そのなかには、昨年の東日本大震災の被災地との関わりも含まれます。やはり、震災の影響は大きいです。人間ではどうしようもない部分というものも、とても強く感じましたし。

Noismができて、丸8年、私たちは、いまだかつてないくらいグループ意識が芽生えています。一番短い人でも3年は一緒にやっている。もちろん、みんな個々でもちゃんと自立しているし、それを望んでいますが、それでもNoismを思う集団的な気持ちというのはとても強く感じられる。
そういう彼らのことだから、私ももっと知りたい、と思ったんでしょうね。彼らが今この時代にあのような震災を受けて、舞踊家として生きる。彼らの過去の記憶とか、今の気持ちとか、そういうところに自然に目が行くようになったわけです。

――Noismの舞台は、観客を単なる傍観者では終わらせてくれない臨場感と緊迫感があります。観客との関係性でいうと、いつもどんなことを考えて作品づくりをしているのですか?

見世物小屋シリーズには『Nameless』という言葉がついています。「名もなき」という意味ですが、そこに託した思いは「自由に名前をつけていい」ということです。
舞台芸術というのは基本的にNamelessなんだと思う。100人いたら100人感じ方が違う。だから、思った名前をつければいい。それが舞踊作品なのか演劇作品なのかっていうことも、観に来てくれるお客様一人ひとりに決めていただきたいと思っています。

そして観客のいる空間でこそ見えてくるもの、それでなくては見えないものもあります。だから私は、本番に入ってからけっこういじるんですよ。メンバーも、本番の舞台で初めて見せる空間っていうのがあって。そこは、やっぱりみんな舞台人ですから。

私は、自分の中で答えがわかっているものを共有したくて伝えているわけではありません。あくまでも自分にとっての疑問であること、その疑問をこそ、共有したい。
「名もなき部分」を埋めるのは、だから常にお客さん自身なんです。

 

[プロフィール]

撮影:篠山紀信(Kishin SHINOYAMA)

金森穣(かなもり・じょう)
演出振付家、舞踊家。
ルードラ・ベジャール・ローザンヌにて、モーリス・ベジャールに師事。ネザーランド・ダンス・シアターⅡ、リヨン・オペラ座バレエ、ヨーテボリ・バレエを経て2002年帰国。
03年初のセルフ・プロデュース公演『no・mad・ic project~7 fragments in memory』で第3回朝日舞台芸術賞を受賞し、一躍注目を集める。
04年4月、新潟りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任し、劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。自らの豊富な海外経験を活かし、革新的なクリエイティビティに満ちたカンパニー活動を次々に打ち出し、そのハイクオリティな企画力に対する評価も高い。2011年はサイトウ・キネン・フェスティバル松本でバレエ『中国人の不思議な役人』やオペラ『青ひげ公の城』の演出振付も手がけた。
平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか受賞歴多数。
公式サイトhttp://www.jokanamori.com

[公演情報]
見世物小屋シリーズ3部作完結編『Nameless Voice~水の庭、砂の家』


新潟公演
2012年6月29日(金)、30(土)、7月1日(日)、27日(金)、28日(土)29日(日)、30日(月)、10月27日(土)、28日(日)、11月2日(金)、3日(土祝)、4日(日)*全12回公演
りゅーとぴあ 新潟市民文化会館 スタジオB
入場料:一般4000円、学生2000円(全席自由・税込)
発売日:N-PACmate4月14日(土)/一般4月21日(土)
チケット扱い:セブン―イレブン(セブンチケット セブンコード:015-882)
チケット・問い合わせ:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル 025-224-5521(11:00~19:00/休館日を除く)
主催:公益財団法人 新潟市芸術文化振興財団

埼玉公演
7月6日(金)、7(土)、8日(日)*全3回公演
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
入場料:一般4500円、学生3000円(全席指定・税込)
発売日:一般3月31日(土)
チケット扱い:チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット
チケット・問い合わせ:財団チケットセンター 0570-064-939(10:00~19:00/休館日を除く)
主催:公益財団法人 埼玉県芸術文化振興財団

静岡公演
7月21(土)、22日(日)*全2回公演
静岡芸術劇場
問い合わせ:SPAC-静岡県舞台芸術センター 054-202-3399(10:00~18:00)
主催:SPAC-静岡県舞台芸術センター

愛知公演
10月12(金)、13日(土) *全2回公演
愛知県芸術劇場小ホール
問い合わせ:愛知芸術文化センター・愛知県文化情報センター 052-971-5511
主催:愛知県芸術文化センター企画事業実行委員会

金沢公演
10月20(土)、21日(日)*全2回公演
金沢21世紀美術館 シアター21
問い合わせ:金沢21世紀美術館 交流課 076-220-2811
主催:金沢21世紀美術館(公益財団法人 金沢芸術創造財団)

 


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