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SPECIAL! 『海辺のカフカ』ステージレビュー
5月3日~20日彩の国さいたま芸術劇場大ホール、6月21日~24日大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!にて公演が行われる、舞台『海辺のカフカ』。村上春樹原作×蜷川幸雄演出×柳楽優弥主演と、心踊る要素の相乗効果がものすごいことになっている話題作です。そこで気になっている方のために(すでにご覧になった方は再び感動を味わうために)、埼玉公演千秋楽を目前に、ステージレビューをお届けします。(写真/渡部孝弘、文/沢美也子)
INTERVIEW & SPECIAL 2012 5/16 UPDATE
15歳の誕生日に「世界で一番タフな15歳になる」ために、家出をした少年は「カフカ」と名乗り、四国へ旅立つ。高松の私立図書館で大島さんや館長の佐伯さんと出会う。一方、猫と話ができる変わった老人・ナカタさんも、ある理由から四国を目指す。二つの物語はやがてクロスしていく。
冒頭、木々やトラック、書斎や商店街の入り口などが、それぞれ透明なボックスに入って、集まってくる。蜷川は幻想と現実が複雑に交じり合う原作の世界を、ボックスに閉じ込めたパーツを自在に使うことで、具体化している。最初はカフカの父の書斎、そして高速道路のサービスエリア、ナカタが猫と話す公園、カフカがたどりつく甲村図書館と、めまぐるしい展開だ。
(左から)カフカ役・柳楽優弥、佐伯役・田中裕子撮影:渡部孝弘
甲村図書館で中年の佐伯さんと出会ったカフカは、幼いころに自分を捨てたは母親ではないかと思う一方で、佐伯さんに恋をしてしまう。大枠としてはギリシャ悲劇の『オイディプス』で、父を殺しと母を犯すという呪いがカフカにもかけられている。
記憶を失っている間についた大量の血、夢か現実か分からない中でのセックス、森で出会う日本兵、入り口の石、ジョニー・ウォーカーやカーネル・サンダーズなど、謎満載の物語は4時間もの上演時間を飽きさせない。時間と空間を越えて、カフカが恋人と抱き合うシーンは、ボックスを巧妙に使っていて、「幻想」を実感させてくれる。
(左から)さくら役・佐藤江梨子、カフカ役・柳楽優弥 撮影:渡部孝弘
これが初舞台となる柳楽優弥は、堂々と、しかもナイーブにカフカを演じてみせてくれた。14歳で人生が激変した柳楽の苦悩と、15歳の少年の激しく揺れ動く魂が呼応しているかのようだ。小さな獣のように警戒心の強い少年カフカが、大島さんの優しさや、佐伯さんの温かさで、柔らかな表情を見せていく変化を、柳楽はその場を生きるように表現していた。
長谷川博己演じる大島さんは、「特殊な人間」で、社会との折り合いをつけるのが難しい人なのだが、繊細で、賢く、同じように社会と折り合いがつかないカフカを守る存在。長谷川は、清潔感のある色香で、独特の魅力を放っていた。華奢な体つきが「特殊な人間」にぴったりだ。
読み書きができないナカタを演じるのはベテランの木場勝己。感情表現がほとんどできない設定の中でもひときわ存在感を示した。佐伯さんを演じたのは、ゆるぎない演技力をみせる田中裕子。
迷宮をめぐる少年の旅は、大人にも世界を見直すチャンスをくれる。
『海辺のカフカ』
5月3日~20日埼玉・彩の国さいたま芸術劇場大ホール
6月21日~24日大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!
原作/村上春樹
脚本/フランク・ギャラティ
演出/蜷川幸雄
出演/柳楽優弥、田中裕子、長谷川博己、柿沢勇人、佐藤江梨子、高橋努、鳥山昌克、木場勝己ほか