インタビュー & 特集

INTERVIEW! 『SHOW Beyond the Door』水 夏希さん

水夏希さんが初めて構成・演出を手がけ、自ら出演するショー『Beyond the door』。宝塚歌劇団雪組男役トップスター時代から客席と一体感のあるショーで観客を魅了してきた水さん。作品作りやショーに対する思い、宝塚歌劇団退団後3年間の歩み、そして水さんのこれからについて語っていただきました。
(撮影/熊谷仁男 取材・文/大原薫)

INTERVIEW & SPECIAL 2013 9/13 UPDATE

●今回のショーで構成・演出を担当することになったきっかけは?

私が9月12日に宝塚を退団したので、その記念日に合わせて毎年この時期にコンサートを開いていたんです。コンサートというのは曲と曲の合間にトークでつなぐような形式ですよね。そういう形ではなくて、一つの世界観で自分の表現ができるショーに挑戦したいという気持ちからスタートしました。

●タイトルの意味するところは何でしょうか。

タイトルはすぐに決まりました。宝塚にいる間もそうですが退団してからの3年間、いろいろな作品に出ることで新しい扉を開けてきた。これからも様々な扉を開けていこうという思いでタイトルをつけました。

●実際にやり始めてみていかがでしたか?

ショー作りを甘く見ていた(笑)と思いましたね。自分のやりたいことは明確だったんですが、それを具体化する作業がこんなに大変だとは。宝塚の退団公演のとき演出家の方に『こんな感じの場面で、こんな曲で……』と書いたものをお渡ししたんです。『今回は自分で構成してみようかな』と思ったら、それがすごく大変! 曲を一つ探すのでも、たとえば『最初にドラムソロでカッコよく始まってからインスト(演奏)になって、ちょっとロマンチックになって、最後盛り上がって終わる』というイメージの曲を探しても、なかなかないんです。

●そこまで具体的なイメージがあると、なかなか見つからない気がするんですが(笑)。

そうですか?(笑) それでいろんな方に『こんな曲、ない?』と聞いたり、自分でユーチューブを見て探したり。いろいろ検索しすぎて、パソコンが壊れちゃったくらい(笑)。そして曲が決まったら、次は作詞。

●歌詞も全部、水さんが書かれるのですか!

全部ではないですが、場面の雰囲気を文章にしたところから歌詞をはめていくという作業ですよね。

●ショーの内容はどういうものに?

構成としては心の扉を開くまでの葛藤、それを開いてからはいろいろなチャレンジの扉があって、その扉の先には未来への希望を込めたシーンにつなげていこうと思っています。ゲストの藤岡正明さん(14日)、平澤智さん(15日)の出演はショーの本編の後、トークとコラボレーションを交えて別立てで構成します。実は、私の趣味って結構マニアックみたいで(笑)、知り合いの方に選曲を言ったら「マニアックな選曲をしたね」といわれたんですよ。宝塚時代も荻田(浩一)先生の作品のようにすべてを言葉で説明しないで、謎の部分を残しているようなものが好きだったんですね。以前出演させていただいた『7DOORS』も一般的にはわかりやすい作品ではなかったけれど、私はすごく好きな作品だったんです。自分の中ではそういう世界観が好きみたいですね。

●では、見た皆さんがどんな感想を持たれるかが楽しみですね!

そうですね、答えはこちらから提示しないので、皆さんの自由に感じていただきたいですね。終演後には『どんな景色が見えましたか、どんな扉が開きましたか』と感想を全員の方にお聞きしたいくらいです(笑)。

●ダンスシーンも多いですか?

そうですね、今回はダンスがふんだんに盛り込まれています。ミュージカルって実はあまりダンスシーンがないんですよね。でも、今後も水夏希という演者を表現する手段としては、ずっとダンスをやっていきたいと思っています。共演者の方々も含めて『ダンス、ダンス、ダンス!』(笑)みたいなハードなショーになると思います。

●作品作りで何かインスパイアされる元になっているものはあったのですか?

特定された元になるものはないですね。私が今まで自分が見たもの、聞いたもの、感じたこと。そして、今自分が探し出したかったものの中から作っていくからこそ、自分が好きなものがクリアになっていった気がします。

●ショーを演じる側から作る側になって、違いは感じましたか。

パフォーマーとしているときは演出家なり振付家なりが正解を持っていて、そこに向かいつつ、自分がパフォーマンスすることで演出家たちの想像を超えるところがあったらいいなと思っていたんです。正解は台本や歌詞の中にあった。でも、今回はその答えや目指すものを自分が作らないといけない。正解がないんです。『この場面、何をやりたいの?』って自問自答ですよね。でも、そうやって作っているうちに、自分が本当に好きなものって宝塚時代とあまり変わっていないんだなと気づきました。宝塚を退団した後いくつか取材をしていただいたときは、そのときの役のイメージに合った服を選んでいたんです。でも、今回の『Beyond the Door』の取材では自分のキャラクターを生かす服をチョイスしようと思ったんですね。それって、自分が宝塚時代に自分の男役像をまとめていった感覚とどこか似ていて。こうして自分のショーを作るということは、水夏希というパフォーマーの世界観を絞る作業につながっていると思います。

●なるほど。ここで水さんの宝塚退団後の歩みを振り返っていただこうと思います。

いや~、大変でしたよ(笑)。って、まだ全然結果は出ていないですけど。男役で十何年やってきて確固たる自信があって、下級生たちにも『こうしたらいいよ』とそれこそ自分なりの正解を示してやってきました。でも、宝塚を退団した後は自分の常識が通用しないということがわかって、もっと心も体も柔軟性が必要だなと思ったんです。

●昨年の『BAD GIRLS meets BAD BOYS』ではアメリカのダンスユニットとのコラボレーションで、稽古もアメリカでやられたんですよね。

そうですね、初めは『ジャパンに帰りたい』とホームシックになっちゃって(笑)。当たり前ですけど、自分たち以外は全部英語だし。周りに何もないようなロングステイ用のホテルに泊まって自炊といわれても『無理無理!』って(笑)。踊りも女性パートだから、今までリフトしかしたことがないのにリフトされる側になって大変でした。ただ、日本でずっと稽古をしていたら恥ずかしさを捨てきれずに『じゃあ、私はクールなパートで』と思っていたかもしれないけれど、海外にいたからこそ思い切ってできたのかもしれないですね。自分の中ではいいホッピングになった気がします。

●特にターニングポイントになったものをあげていただくと?

この3年間で経験として一番大きかったのは『屋根の上のヴァイオリン弾き』に出演させていただいたことですね。そこでは男役だった自分を完全に封印して女性像を演じることで、いい意味で男役であることのこだわりがゆるんだかなと思います。この3年間、私もいろいろ葛藤して悩みましたけど、ファンの方ももっと悩んだと思うんです。スカートを履いて(『屋根~』のアナテフカ)村の娘をやっているのを見て『えっ、男役だった水さんはどこ?』と思われたかと(笑)。でも、『スカートを履いても、男性が相手でも、水夏希という人を応援したいんだと思いました』というお手紙をいただいて、とても嬉しかったです。皆さんもいろいろ悩んで葛藤して、ここに至ってるんだなと思いました。だから、これからも皆で一緒にドアを開けていきたい。 『これからもどんどんドアを開けていくけど、別のドアに行かないで(笑)、私が開けたドアで一緒に同じ景色を見ようよ』と思いますね。

●ではドアを開けた先には、どんなものが見えてくるでしょう。

うーん、なんだろうな。宝塚時代のドアの形が決まっていた気がするんです。でも、これからはどんな形のドアでも勇気を持って開けていけたらいいな、その先に見える世界をたくさん味わいたいなと思うんですよね。去年のちょうどこの時期に、生まれて初めて富士登山をしたんですよ。1週間くらいに急に決めて、登山したことがある人に相談したら『大丈夫、大丈夫』と言われて『そうか』と思っていったら、すごい高山病になっちゃって(笑)。『八合目で挫折か!』と思って、酸素ボンベ片手にずっと吸いながら登ったの。

●酸素ボンベ、持ってらしたんですか?

いや、途中で売ってるの。平地では500円くらいなのに富士山では1500円くらいで。でも『命には代えられない!』と思って4本くらい買って『酸素、最高!』と思いながら(笑)登りました。でも、そうやって登って富士山頂で見えた景色は、本当に視界が開けていて。『まだまだ、見たことがない世界っていっぱいあるんだ』と思えましたね。初めは甘く見てたけど、山はすごく険しくて大きかった。でも、頂上から見える景色は登る前に予想していたものとは全然違うんですよね。だから、この先も新しい扉を開けていった先には、全然違う景色が見えるということは確信しているんです。

●『Beyond the door』の後には、『DREAM, A DREAM』~宝塚歌劇100周年前夜祭~にドリームゲストで出演されますね。宝塚のOGの方が集う公演に出演するのは…?

初めてです。しかも学年的には大和悠河さんの次で、下から2番目なんです。緊張するわ(笑)。作品の中で宝塚のOGの方がいらっしゃるのとそうでないのとは全然違うんですね。『屋根~』ではツレ(鳳蘭)さんがいてくださったから安心感がありました。そういう意味では今回の『DREAM~』もとても心強いですね。皆さん、トップさんとしてその時代を生きてこられて、卒業してOGになって……という同じ道を歩んでいるわけじゃないですか。いろんな先輩の姿を間近に見て刺激になる部分がたくさんあると思うので、楽しみにしています。

●これからしてみたいことは?

このところはショーが続くので、お芝居がやりたいですね。歌もダンスもやっぱり芝居心が必要だと思うので。ナチュラルな芝居や理解して言葉を発するタイプではない作品など、芝居の部分にインスパイアされる作品に出会いたいなと思います。

●では、今後水さんにどんな景色を見せていただけるか、楽しみにしています!

毎年新しい扉を開けて、Beyond the doorでいきたいですね。

『SHOW Beyond the Door』は9月14日〜15日まで、品川プリンス ステラボールにて上演されます。

[関連インタビュー]
INTERVIEW! SHOW-ism IV『TATTOO 14』水夏希さん

[プロフィール]

水夏希

みず・なつき
元宝塚歌劇団男役トップスター。2007年『星影の人』沖田総司役で雪組トップスターに就任。2010年9月宝塚を退団。2011年『スミレ刑事の花咲く事件簿』ドラマ・舞台に主演。12年『7DOORS~青ひげ公の城~』主演。13年『屋根の上のヴァイオリン弾き』出演。『SHOW-ismⅥ TATTOO 14』主演。今年、10〜11月には宝塚歌劇100周年前夜祭『DREAM , A DREAM』に出演予定。

[公演情報]

『SHOW Beyond the Door』

2013年9月14日・15日 品川プリンス ステラボール
構成・演出:水夏希
振付:平澤智、原田薫
音楽監督:岩崎廉
出演:水夏希、上口耕平、三井聡、ICHI、田中志乃
問い合わせ:(株)AQUA 03-6228-4547 (平日11:00~18:00)


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