インタビュー & 特集

SPECIAL!  Noism設立10周年記念『カルメン』会見

この4月に設立10周年を迎えた舞踊集団Noism。その中心は、設立以来芸術監督としてNoismを牽引する金森穣さんと、やはり設立時から参加し、彼のミューズとして金森ワールド具現化に欠かせない筆頭舞踊家でNoism副芸術監督の井関佐和子さん。6月に上演する10周年記念公演、劇的舞踊『カルメン』についてお2人が語る囲み取材に行ってきました!(取材・文/仲野マリ)

INTERVIEW & SPECIAL 2014 5/1 UPDATE

囲み取材は4月3日、KAAT神奈川芸術劇場で行われました。
まずNoismスタッフが「劇的舞踊『カルメン』はりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館、KAAT神奈川芸術劇場、兵庫県立芸術文化センターの連携企画で、新潟での初演後、神奈川、兵庫の各劇場で上演されます。Noismとその下部組織であるNoism2のメンバーのほか、SPAC静岡県舞台芸術センター専属俳優である奥野晃士を含め、総勢21名が出演いたします」と説明をし、続いて芸術監督の金森穣さんと副芸術監督の井関佐和子さんが、『カルメン』に賭ける思いを語りました。
メリメの原作に立ち返って「学者」を登場させる一方、音楽は有名なビゼーのものを敢えて崩さず、「同じ音楽から始まって新たなカルメン像を紡ぎ出す」と語る金森さん。金森さんに「土を食べろ!」と言われ、そこからカルメンの本質をつかんだという井関さん。Noismの目指す高みとプロフェッショナルな向き合い方には、いつもながら感服させられます。

 

「学者」を登場させ舞台を多層的に

金森:
『カルメン』は、メリメの原作をもとに、ビゼーの音楽でつくられたオペラがあまりにも有名で、バレエなどオペラ以外の作品も『カルメン』といえば、ほとんどがホセとカルメンに焦点を当てて作られています。
でも、それはメリメの原作のある一部分を引き抜いて作っているもので、今回、私はあくまでもメリメの原作に立ち返って脚本を書いていますので、原作にはあるがオペラには登場しない人も登場してきます。同時に、原作には出てこないキャラクターも使っています。
私としては、これまで原作、オペラ、バレエ、と今までさまざまな形でつくられてきた『カルメン』という作品を一度吸収した上で、我々Noismなりのものをつくっているという感じですので、一風変わったものになるのかなと思います。
メリメの原作では、まず学者がジプシー研究のための旅をしていて、そこでホセと呼ばれる男、カルメンと呼ばれる女に出会います。ですから最初、学者の視点で語られているんです。ところが途中から、ホセの物語に転換するんです。ホセの視点になって、ホセの一人称で語られ始める。それが途中で、またポンと入れ替わるんです。そのうち、また学者の視点に戻ったりもします。こうした小説のあり方を、私は面白いと思いました。視点だけでなく、時間軸も変わります。要するに時間も飛躍するし、人称もコロコロ変わる。その構造に、舞台を創造する演出家としてすごく刺激を受けたということです。
バレエであれオペラであれ、一般に舞台上で行われていることは客席から切り離され、一つの世界として完結しているものです。それをお客さんは客席にいて、四角い額縁越しに見るわけですが、メリメの『カルメン』ではその中間に学者が存在し、最初は劇の主役として舞台上にいたのに、途中でホセにその座を譲って自らは消えてしまうわけです。そして今度は傍観者としての語り部となる。この変幻自在な存在があることで、お客さんはいつもとちがった次元から、舞台上の「物語」を見ることになるでしょう。
今回は、SPAC-静岡県舞台芸術センター専属俳優である奥野晃士さんに学者役を演じていただきます。舞踊という言語化されないものの中に、言語を用いた表現者を、一人介在させることで、メリメの原作のもつ多層的な物語をお届けできるかなと考えました。ただ、役者といえども、私にとってはあくまで一つの身体。発せられた言葉に意味はありますが、発している瞬間は身体的表現。声もあくまでも身体表現の一つであるということは、絶対的に重要です。

 

ビゼーの音楽にあえてこだわる

金森:

音楽はあくまでも全部ビゼーの曲で行きます。その根拠としては、音楽から受けるインスピレーションがたくさんあったということです。

最初に、原作とオペラの台本を全部読んでオリジナルの台本を書きました。そしてオペラ版、オーケストラ版、バレエ版などなど、ビゼーのあまたある曲を全部聞き、各シーンにあてはめていったんです。
たしかにビゼーの音楽は偉大なので、そちらに引きずられやすいのは確かです。構想を考えるときも、ビゼーの音楽にひとくくりにされている、もうちょっとはずしたり、崩したり、脱構築したりしなくてはいけないか、ということも頭をよぎりました。
でも今回は、これまで長い間みなさんが親しんできた有名なビセーの音楽を用いながらも、その音楽によってつくられてきたカルメンというイメージを刷新したい。カルメンという題材を別の表象に置き換えているのではなく、あえてビゼーの曲だけで新たなカルメンを提示するのが、私の一つ目の野心です。
まずはみなさんの持つ共通のイメージがあり、そこから、こんなカルメンもあるんだ、原作にはこんなことも含まれているんだ、そうかここはNoismオリジナルだな、などと、これまでのカルメン像からどれだけ飛躍できるかということを、自分に課そうと思っています。
また、私はこれまで20年くらい振付していますが、今回のように曲が全部あって、みなさんが知っているものだけでつくるのは初めてで、そういう意味でも、個人的にはチャレンジであることがすごく重要ですね。

 

カルメンの野性とホセの理性

井関:
今回、タイトルロールのカルメンを踊らせていただきます。私自身、カルメンはずっと踊りたいと思っていた作品で、特に音楽が好きで、昔からずっと聴いていました。前回作品『ZAZA』をつくるにあたって演出振付家からアンケートがあったのですが、そのアンケートの「やってみたいものは何か」という質問に対する答えの中に、実は『カルメン』も入っていたんです。だから、決まったときにはびっくりしました。
今回原作を読むまで、私の中のカルメンのイメージは、おそらく皆さんと同じの、赤いバラをつけて、派手なふるまいをしている女性でした。でも原作には一度もバラは出てきません。そこには一人の女性として生きているカルメンがいて、これまでの自分の浅い考え方、浅い知識というのにまずはぶち当たってしまいました。
そして第二の壁はポスター撮りです。自分がやりたいといいながら、何をどうしていいかわからないまま臨んだわけで、自分なりにやってみるんですけれど、穣さんには「違う」って言い続けられて。で、最終的には「土を食べろ」と(笑)。ポスターに写っている茶色いのは土で、土の上で動いていたんですけれど、その「土を食べろ、佐和子」と言われて(笑)。
でもほんとにそれで明らかに変わったんですよ。内側的なもの、穣さんが欲する獣(けもの)的な女性だったりするものが、自然と出てきたんです。でも舞台って最終的にはつくってお客様に見せなくてはならないので、今、それをどれだけ掘り下げて、つくって、お客様に見せられるか、というところが大きなポイントです。

 

金森:
ホセとカルメンの対比において、私自身がキーワードに掲げているのが「カルメンは野性である」「ホセが理性である」ということです。
カルメンには社会人としてのルールみたいなものがない。逆にホセは小さいころからエリートとして育てられ、軍隊に入って位を上げることを目指してかたくなに生きていたがゆえに、社会的規範から逸脱しているカルメンに翻弄される。こうしたカルメンの過剰な喜怒哀楽が、ある種の野生性として一人の舞踊家の身体から発せられるところを、私は見たいんです。

 

井関佐和子の今を見逃すな

金森:

佐和子は、舞踊家として今すごくいい時期にいると思います。内側と外側のバランスがとれ始めている。そしてバランスがとれるというと安定するように思えますが、そうじゃなくて、振り子がものすごく離れたところで振れている。だから一番いい時期なんですね。それを存分に生かしてほしい。だからこそ、こちらもチャレンジなんですが。簡単すぎるなどと思われたくないし、もっとぎゃふんと言わせたい。驚いてほしい。そしてこちらも彼女の新しい魅力に驚きたい。もっと輝いてほしいという感じなので、彼女に対する期待というより、自分に対して、やらないといけない、という気持ちです。

2010年に上演した、劇的舞踊『ホフマン物語』で初めて三幕ものの物語を脚本からつくったとき、物語を伝えることに固執して、動きの妙味とか舞踊の振付に対してあまりエネルギーを注げなかったという反省が、自分の中ではありました。ですから今回は、早めにいろんなアプローチに取り組み、動きをつくっています。出演者も多く作品も長く、シーンもたくさんあるので、今までの様々な作品をつくる過程でやってきたこの10年間の様々な手法、ワークショップとかも含め、それらを全部用いています。
ただ、ひと口に「これまでのアプローチを全部試みる」といっても、すべての実験につきあっているのは、実は佐和子だけなんですよ。他のメンバーには初めてのアプローチだったりするので、求められている事を理解するまでは大変。でも、逆に知らないがゆえに新しいものが出てきたりもして、面白いことになっています。
今回に限ったことではありませんが、舞踊家がそれまで知らなかったような自分に出会う瞬間、私自身が見たこともない輝きを放つ瞬間こそが宝です。それを彼らから得ることによって、私自身も彼らとともに、今まで生み出せなかったようなものを生み出せたり、自分自身の新たな面に気づかされたりします。
それが創作現場の一番の醍醐味であるし、同時に一番の苦難でもある。今回は佐和子が、カルメンの中にそういう野生性をどこまでつかみとり、掘り下げて皆様に提供できるか。そのための装置としての演出を、私がどこまで施せるかという挑戦でもあります。

 

キーワードは「物語の物語」

金森:
Noism10周年に、なぜ『カルメン』を持ってきたのか。それは、この原作を読んだときに、「物語の物語」というキーワードが浮かんだからです。
原作の『カルメン』は、ホセが話したホセの物語を、次は学者が語っているという状況です。他人(ひと)の物語を別の人が語る。物語ってそうして本人を離れて語り継がれていくものではないでしょうか。
Noism設立から10年経っても、日本にはいまだに我々以外劇場専属舞踊団が存在しない。その事実は、Noismの今後に対する不安定さにも通じます。Noismも、いつか「物語」としてのみ語られる「歴史」となる日がくるのでは…そう思ったのです。
実はメリメは、作家であると同時に歴史家でもありました。つまり現実に起こった史実を研究する人だったにもかかわらず、虚構(フィクション)を書く作家でもあったということも、面白いなと思ったことの1つです。
このように、「実態と物語」「虚構と現実」は容易に分けられません。ホセやカルメンが生きる舞台上にある虚構と現実、そこから一歩出たところにいる学者の中の虚構と現実。それらが多層的、多次元的になって波のように押し寄せてきたときに、舞台芸術と呼ばれるものの本質が見えてくるのではないか。虚構としての物語を、ある種のリアリティ、現実を飲み込むような形でお届けできれば、というのが、今回私が演出家として抱くもう一つの野心です。

 

Noismでの10年とこれから

井関:
Noismとの出会いは、自分の人生の中でとても大きな転換期だったと思います。最初のうちは自分のやりたいことが前面に出過ぎて、穣さんとはしょっちゅう衝突していました。10年一緒にやってきて、そのへんはさすがに学んだというか、穣さんがやりたいようにやるのが自分にとってもいいと思えるようになりました。多少顔に出てしまいますが(笑)。
また、新しいメンバーに対して、いい自分でいなければ、とかカッコ悪いのは見せられない、というとらわれ方から、最近ようやく解放されたように思います。ドジしてもいいんじゃないか、それが若い子にも自信になる、とか、わざわざお姉さんになることはない、と、自然体で対等に向き合えるようになりました。

 

金森:
10年の中で、自分だけでなくNoismとして培ってきたものが豊穣になってきたと思います。新しく入ってきた子も、周りを見ていればおのずとNoismの舞踊家として何を求められているのかがわかるような空気ができています。先ほども言いましたが、設立当初からずっといるのは佐和子だけになりました。仲間が辞めて行ったり、新しく入ってきたメンバーに向き合うことにも、今は慣れてきました。みんな大好きだし、いい子だけれど、いつかは辞めてしまうということもわかったので、とりあえず、自分1人でも行く。ついてきてくれる人がいればありがたい、と5年くらい前から腹をくくっています。私たちのような劇場専属の舞踊集団がもっと増えてほしいという希望はありますが、現状はなかなか動きません。今はとにかく、自分がここでやれることをやっていこうと思っています。

 

 

 プロフィール

撮影:篠山紀信(Kishin SHINOYAMA)
金森 穣
演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism芸術監督。ルードラ・ベジャール・ローザンヌにて、モーリス・ベジャールらに師事。ネザーランド・ダンス・シアターⅡ、リヨン・オペラ座バレエ、ヨーテボリ・バレエを経て2002年帰国。’03年、初のセルフ・プロデュース公演『no・mad・ic project ~ 7 fragments in memory』で朝日舞台芸術賞を受賞し、一躍注目を集める。’04年4月、りゅーとぴあ舞踊部門芸術監督に就任し、劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。海外での豊富な経験を活かし次々に打ち出す作品と革新的な創造性に満ちたカンパニー活動は高い評価を得ており、近年ではサイトウ・キネン・フェスティバル松本での小澤征爾指揮によるオペラの演出振付を行う等、幅広く活動している。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか受賞歴多数。

 

 

 
   撮影:篠山紀信(Kishin SHINOYAMA)
井関佐和子
舞踊家。Noism副芸術監督。1978年高知 県生まれ。3歳よりクラシックバレエを一の宮咲子に師事。16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにて、モーリス・ベジャール他に師事。’99年ネザーランド・ダンス・シアターⅡ(オランダ)に入団し、イリ・キリアン、オハッド・ナハリン、ポール・ライトフット等の作品を踊る。’01年クルベルグ・バレエ(スウェーデン)に移籍し、マッツ・エック、ヨハン・インガー等の作品を踊る。’04年4月Noism結成メンバーとなり、金森穣作品においては常に主要なパートを務め、現在日本を代表する舞踊家のひとりとして各方面から高い評価と注目を集めている。’08年よりバレエミストレス、’10年よりNoism副芸術監督も務める。公式ブログ / www.amekago.net/blog/iseki.php   Twitter / @sawakoiseki

 

 

公演情報
Noism設立10周年記念
Noism1&Noism2合同公演
劇的舞踊『カルメン』
演出振付:金森穣
音楽:G.ビゼー〈カルメン〉オーケストラ版&組曲版&交響曲版より
衣裳:Eatable of Many Orders
家具:近藤正樹
映像:遠藤龍
出演:Noism1 & Noism2、奥野晃士(SPAC – 静岡県舞台芸術センター)
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・KAAT神奈川芸術劇場・兵庫県立芸術文化センター 連携プログラム
製作:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
協力:SPAC – 静岡県舞台芸術センター
助成:一般財団法人地域創造
主催:KAAT神奈川芸術劇場
【新潟公演】
2014年6月6日~8日りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
【神奈川公演】
2014年6月20日~22日 KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
【兵庫公演】
2014年6月27日 兵庫県立芸術文化センター〈阪急中ホール〉
≪問合せ≫りゅーとぴあチケット専用ダイヤル:025-224-5521(11:00~19:00/休館日を除く)
Noism公式サイト http://www.noism.jp

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