インタビュー & 特集
SPECIAL! 『セレブレーション100!宝塚』集中連載 第一回 杜けあきさん (1)
2014年4月についに100周年を迎えた宝塚歌劇団。これを記念して上演される『セレブレーション100!宝塚~この愛よ永遠に~』は、39名もの元トップスターたちが参加します。一人一人の軌跡が宝塚の歴史そのもの。今回のインタビューは各トップスターさんに、現役時代のお話から100周年の思い、OG公演についてなどをお伺いいたしました。トップバッターは雪組一筋で活躍した杜けあきさん。優しい微笑を浮かべて「杜けあきです。よろしくお願いします」と優雅に登場した彼女に、「王道」と呼ばれた宝塚人生を、そして宝塚によせる思いを伺いました。(取材・文/小柳照久、撮影/笹井孝祐)
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INTERVIEW & SPECIAL 2014 5/15 UPDATE
宝塚時代の思い出~新人公演
私が宝塚歌劇団に入るきっかけとなったのがNHKで放送された『ベルサイユのばら』でした。それも雪組版。ですから、雪組に配属になった時はすごくご縁があったのかなって嬉しかったです。
当時は新人公演が二回ありました。一回目と二回目で別の役をやりましたので、初日が開いたら新人公演のお稽古ばっかりで、寝た覚えがない位忙しかったです。いつも駆けずり回っていたというイメージでしたが、その関係で生徒の抜擢も早く、私も組配属になってすぐ、『青き薔薇の軍神』で三番手格の役をいただきました。最初の新人公演主演は『彷徨のレクイエム』で研3の時です。
その後、麻実れいさんの役を新人公演で演じることが多くなりました。私は体型が女性的で、立役的雰囲気じゃなかったんですけれど、麻実さんの役となると、背伸びしてでも大人の男に挑戦しなくてはいけなかったわけですね。でも、今思えば、これがとても良かった。麻実さんの役を新人公演でさせていただいたからこそ、男役の包容力を意識するのが早かったですし。
男役の包容力って、もしかしたら母性に通ずるものがあるかもしれない。私は元来、みんなで何かを作り上げる「和」が好きなんです。コンビを組む際、娘役って自分よりだいぶ若いことも多いんですが、何か不得意なことがあって悩んでいる時、一緒にああでもない、こうでもないって何かを作っていくことに燃えました。相手役が与えられるシチュエーションが自分の修行にもなるんです。
若手時代
新人公演を経て、研5の時『恋のトリコロール』でバウホール主演をさせていただきました。当時は最年少主演。そして、あれよあれよという間に三番手に。麻実さん退団後、同期はまだ新人公演に出ていたんですが、私は一足早く新人公演を卒業させていただきました。この頃、人さまから「順風満帆な」と言っていただきましたが、自分の中では実力や経験が伴っていないのに、どんどんポジションがあがっていく恐ろしさを感じていました。とにかく役に追われていて「出来るようにならなきゃ、出来るようにならなきゃ」と無理やりでも、階段を上った、這ってでも上がった。そうして、気が付いたら二番手になって、トップになっていました。あっという間でしたね。
スターシステムと共存する年功序列
宝塚ってポジションごとに経験する事、感じることが全然違うんですよ。それが凄い人間修行になりました。素晴らしい縦社会で、どんなに早くスターになっても良い意味での年功序列というのがちゃんとあって。
今でも覚えているのは、全国ツアーの時、既に二番手だけれど最下級生で参加したことがあるんです。だから、おしぼり当番もあったし、スリッパや靴の管理もやって、それでいてバスには終演5分後には一番最初に乗らなきゃならないというルールがあって。
トップになってからも、舞台の上では最後に迎えてもらって大きな羽根をつけて、幸せなことがいっぱいあるんですけど、しばらくは楽屋が大部屋だったので、業務連絡とかも担当していました。もちろん、上級生がいらしたら、スリッパを出して差し上げたり。自分の中でトップをさせていただいているのにおしぼりなんかを配っている自分が面白かったです。
私は武士道にも通じるような日本人の素敵さだと思ってるんです。アメリカン・ドリームの逆の部分がありますけれど、清く正しく美しい潔さにも通じていて凄く好きでした。
二番手時代
二番手時代はとても恵まれていまして、おかげ様で、本当に素敵な役をたくさんさせていただきました。『大江山花伝』の渡辺綱では自分でも変化が実感できましたし、今をときめく小池修一郎先生の処女作『ヴァレンチノ』もやらせていただきましたし、『風と共に去りぬ』ではバトラーをさせてもらいましたし、でも、トップになる前でしたので責任感もズシッと感じていないので(笑)、自由にはばたかせていただきました。ポジションごとにいろんな経験をさせていただいてというのは非常に大きいですね。
トップお披露目公演
トップとしての重責も潜在意識の中であったと思うんですけど、やっぱり体力的に凄かったですね。お披露目公演は「出番が多いだろうな」とは思っていたんですが、正味2時間半の舞台のうち、2時間以上舞台にいたんですね。まだ20代だったにもかかわらず、すごい運動量で、朝からステーキを食べ、終演後は点滴を打ってから帰る一か月半でした。
トップ経験者はみなさん言うと思うんですけど、お披露目公演の初日、大階段の一番上にスタンバイした時、歴代トップスターでいらっしゃった方全員を尊敬しました。体力勝負の公演の極め付けとして最後に大きな羽根を背負うじゃないですか。大変だーって思いましたね。
トップ時代
『ベルサイユのばら』もやらせていただいて、『華麗なるギャツビー』も、『この恋は雲の涯まで』では義経も、『ヴァレンチノ』の再演もさせていただいて、代表作をたくさん持てたというのが幸せ。本人の頑張りだけじゃなく、めぐり合わせもありますから、本当に運が良かったです。だから、100周年を迎えて「印象に残っている役は?」と聞かれると本当に困ってしまって……たくさんありすぎるので。そして、今回のように数曲歌う時も「本当はあの曲も歌いたいんだけど」と嬉しい悲鳴です。
サヨナラ公演
在団中に宝塚大劇場が建て替えられました。雪組公演『忠臣蔵』で旧大劇場を閉めるってことを聴いた時に、良い区切りだなと思って卒業を決心しました。大石内蔵助を宝塚でやれるなんて思ってもみなかったんですが、長谷川一夫さんからビートたけしさんまで、いろんな内蔵助の映像を拝見させていただき、宝塚しかできない内蔵助が絶対あるはずだと研究しました。当初、ファンの人から「なんでサヨナラなのに子持ちで45歳のご家老なんてやらなきゃならないの」って声があったんですが、初日が開いたとたんにみんな黙った。これで良かったと思ってくださったのが凄く嬉しかったです。
日本の男優さんはやりたい役として、よく大石内蔵助とおっしゃいますよね。演じてみてとっても良く分かったのは、内蔵助は非常に柔軟な人物で、女心をくすぐる部分もたくさん持っているけれど、家長としての包容力やいろんなものもいっぱい持っていて、四十七士を従える大きさと潔さと覚悟。最後はみんなで命を絶っていく清々しさ。そういうのを考えた時に、内蔵助役が「男役の集大成だ」と思ったんです。それを演じられたことに、私の宝塚人生、内蔵助の最後の台詞じゃないけれど「思い残すことはござらん」と。本当に思い残すことはないと。
私、腹芸が大好きなんですよ。『忠臣蔵』では紫ともさんが演じるお蘭(スパイ的役回り)との場面は殺気を感じながら遊び人を演じる場面で、美味しい場面でしたね。仮の姿を演じながらお客様に本心を伝える。目指しているのはそこでした。
トップ時代の後半は男役って意識がまったくなくなっていて、人間・ギャツビーだったり、人間・大石内蔵助っていうくくりしかなかったので、さりげなく、わざとらしくなく、いろんなことを表現できるお芝居が最高に心地よかったです。
(2)に続く。
『セレブレーション100!宝塚~この愛よ永遠に~』の情報は、こちらから公式サイトをごらんください。