インタビュー & 特集

INTERVIEW! 『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』成河さん(1)

5月20日~6月8日世田谷パブリックシアターにて上演される『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』。こちらに出演される成河(ソンハ)さんにお話を伺いました。(取材・文/高橋彩子、撮影/笹井孝祐)

INTERVIEW & SPECIAL 2014 5/16 UPDATE

――北アイルランドのイギリスからの解放と全アイルランドの統一を目指すIRA(アイルランド共和軍)の人々を描いた『ビッグ・フェラー』。どのようにアプローチしていますか?


 演出の森新太郎さんと翻訳の小田島恒志さんを中心に、時間をかけて戯曲の検証をしています。スタッフの方々が資料をとてもたくさん揃えてくださったので、みんなでじっくり勉強してます。(イギリス軍が非武装のアイルランド市民を殺害した)“血の日曜日事件”が起きた1972年から2001年までという、IRAのエッセンスを詰め込んだような時期ですから。当時北アイルランドに住んでいた日本人の方にも稽古場に来ていただき、テロが普通に起きる日常についてお話を聞くことができました。


――北アイルランド紛争の問題を扱いつつ、作品の舞台はニューヨーク。しかも最後は9.11の予兆の中で終わります。

 政治的な皮肉が盛り沢山なんですよね。自分たちのテロを正義だと信じているIRAの人間がイスラムのテロを悪く言っていたり、IRAのテロを泳がせているアメリカの影が大きくなっていったり……。今は森さん小田島さんと、様々な解釈をしているところで、簡単には断定できないんですが、恐らく痛烈なアメリカ批判も裏テーマの一つ。決してその批判を誰かが口に出したりするわけではないところがまた、よくできた戯曲だと思います。


――日本にいる私達も、世界全体のパワーゲームの中で何かを搾取しているかもしれないし、ある日、出来事の当事者になるかもしれない。無関係な話ではないんですよね。

 そうなんですよね。とはいえ、日本で生活している僕らには気づけないことがあまりに多いし、「我が事だ!」なんて言ったらそれはそれで嘘くさい。ただ、何か考え出すきっかけになるというか。単に消費されて終わるような作品ではないところに、この劇を日本でやる意味がある気がします。
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―そうした政治的背景を背負いつつ、舞台上はあくまで室内劇的な雰囲気で進みます。

 基本的には日常会話ですからね。それでいて、舞台上で起きていることだけでなく、その外の出来事を想像できるように作られた戯曲なので、演じ手が構造をわかった上で、いかにちゃんと自然にそこに居られるかどうか。コメディ的な要素もあるので、コメディとシリアスの二重奏をきっちり表現できれば、この上なく面白いものになるはずです。役者泣かせの戯曲ですけどね。

――役者泣かせというのは、具体的には?

 お芝居の進行が、9年経って、次に6年経って、11年経つ、といった具合に小刻みなんです。例えば僕が演じるルエリは、28歳で始まって54歳で終わる。それだけでも、俳優にとってはけっこうなチャレンジですよ。しかも展開が早い。かつ、ルエリにはアイルランド訛りがゴリゴリにあるという設定で、歳月とともにちょっとずつ訛りがなくなって、それなりの階層のニューヨーカーになるんですけど、アイルランド人が現れたらそっちにつられたり、怒ったら訛りが少し出たり…。そういったことが全部、戯曲にしっかり書かれちゃっているんです。で、普通に考えたら、アイルランドのコーク訛りというのは朴訥でおおらかで人懐っこい感じだから、小田島さんと相談しながら、少し東北弁に近い、地域を限定しない創作のイントネーションで演じているんですが、訛りが消えてスタイリッシュなニューヨーカーになるということは、ちゃきちゃきと鋭くなるわけですよね。でも、そのまま鋭くなったら若返って見えちゃう。言葉は早口になるのに年取っていくところが今、ものすごく大きな課題です。


――なるほど。ハードルの高い役ですね。しかし一方で、戯曲を読むだけで成河さんの声が聞こえてくるようにも感じました。

 それは、僕が今までやってきた幾つかの役柄や作品に近いということですよね、きっと。小田島さんも数年前、「『君にぴったりな役があって、“当て翻訳”した』とおっしゃっていました。でもね、僕には色々な面がありますから(笑)! 僕自身は、ルエリみたいなドジはしないほうなんですよ。普段もお芝居でも後先考えて行動するほうだと思うし、あまりぼーっとしませんし。その意味では、ニューヨーカーになってからのほうがしっくり来るかもしれません。

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――お調子者だけれど先のことも考えていて抜け目がないし、優しいのかと思えば残酷なようでもあるルエリ。どう造形されるのでしょう?

 大変ですよ。でも、「お調子者」「抜け目がない」といった形容詞的な部分ではなく、それぞれのシーンでその役が果たすべき役割がわかって、つなげていった時に、こういうヤツなのかな?と見えるのが僕の理想。今は議論を重ね、稽古を続けながら、ルエリという人間が言ったり決断したりすることが、周りの人にどう影響するのかを考えています。たとえば、この劇はルエリがNYに来て半年というところから始まりますが、NYで生活している人の中に、強いアイルランドの訛りと気質をもった人間としてルエリが現れることが、最初の景の役割です。

――狭義の役作りというより、芝居全体におけるご自身の役の意味合いを重視されるわけですね。そう考えるようになったのは、いつごろから?

 最初に教わったのは、tptでのロバート・アラン・アッカーマンじゃないかな。台本の読み合わせに二週間かけるなんて、それまでは考えたこともない世界だったので。よく、「形容詞ではなく動詞を探せ」と言われました。英語圏の俳優さんには鉄則らしいです。「I’m sad」と言った時、sad=悲しい、ではなく、それを言いながらテレビをつけたら、まずそっち。行動の積み重ねで役ができるのだから、役を考える時にはひとまず形容詞は取っ払うようにと教わりました。

(2)へ続く。

 

プロフィール
成河(ソンハ)

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1981年生まれ、東京都出身。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、 『BLUE/ORANGE』および『春琴』の演技により第18回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞。著名な演出家とともに幅広い舞台で活躍。最近の舞台では『ショーシャンクの空に』主演、『9days Queen~九日間の女王~』など。

 

『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』
2014年5月20日(火)~2014年6月08日(日)
世田谷パブリックシアター

[作] リチャード・ビーン
[翻訳] 小田島恒志
[演出] 森新太郎
[美術] 二村周作 [照明] 佐藤啓 [音響] 藤田赤目
[衣裳] 半田悦子 [ヘアメイク] 川端富生 [アクション] 渥美博 [映像] 冨田中理
[演出助手] 城田美樹 [舞台監督] 澁谷壽久
[出演] 内野聖陽 / 浦井健治 / 明星真由美 町田マリー 黒田大輔 小林勝也 / 成河


[国内ツアー]
■兵庫公演
6月12日(木)~15日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
お問合せ:芸術文化チケットセンターオフィス  0798-68-0255

■新潟公演
6月21日(土)・22日(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場 
お問合せ:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル  025-224-5521

■豊橋公演
6月28日(土)・29日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
お問合せ:穂の国とよはし芸術劇場PLAT  0532-39-8810

■大津公演
7月5日(土) 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 中ホール
お問合せ:びわ湖ホールチケットセンター  077-523-7136

 
公式サイト http://setagaya-pt.jp/theater_info/2014/05/the_big_fellah.html


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