インタビュー & 特集

INTERVIEW! 『マーキュリー・ファー』 高橋一生さん Part.1

2015年2月1日(日)からシアタートラムで上演されている『マーキュリー・ファー Mercury Fur』。開幕から早くも高い評価を得ているこの舞台は、イギリスの劇作家フィリップ・リドリー作×白井晃演出の、斬新で衝撃的な作品。この舞台に出演している、高橋一生さんにお話を伺いました。(文/武田吏都、撮影/増田慶)

INTERVIEW & SPECIAL 2015 2/7 UPDATE

――舞台は昨年6月の朗読劇(『不帰の初恋、海老名SA』『カラシニコフ不倫海峡』坂元裕二演出)以来ですね。昨年は映像をメインに活動されていた印象がありますが、ご自分の中で何か意図的なものはあったんでしょうか?

2014-1201_oms-0238年に3本4本と舞台に出演していた時期もありましたが、舞台出演が続くと、それに入れ込んでしまう時間が長く続くことで、精神的にはち切れそうになっていってしまうんです。そういう意味で一度セーブしてみようと思ったというのはあります。あと、お客さんに舞台に来ていただくためにはまずいろいろなところで自分の知名度を上げていかなくてはいけないということに今更気づいてきたんですね(笑)。

――ちょっと意外なお答え! 芸歴の長い高橋さんが、今そう感じられた心境が興味深いです。

お客さんに観に来ていただけてナンボではないかってところも正直あるので(笑)。だから舞台自体を観ていただく可能性を単純に上げるためには、自分が映像に出る機会を増やすということも必要だろうと思っていまして。舞台の数を絞ると物理的に、映像のお仕事にも取り組めるようになるんです。舞台は1、2年前にお話をいただくことが多いのですが、映像は2、3ヶ月前という風にズレがあって、舞台の本数が多いと、映像と両立させるのはものすごく難しいことなので。だから映像への出演機会が増えたおかげで舞台を観てくれるお客さんが増えたっていうのは、『ライクドロシー』(2013)や朗読劇のときにも、なんとなく感じることができました。ありがたいことだなと思っています。

2014-1201_oms-0341――という中での久々の舞台『マーキュリー・ファー』ですが、出演にあたって最も興味を引いた要素は?

(演出の)白井(晃)さんです。白井さんとは『溺れた世界』(2005)というリーディングで初めてご一緒して、その後ちょっと間が空いて『4 four』(2012)。今回の作品含めて全部、世田谷パブリックシアター主催の公演ですね。

――高橋さんから見てどんな演出家ですか?

妥協しない方。あと意外と体育会系な方だなって印象が先行しました。ただ“脳筋”じゃない、頭のいい体育教師みたいな(笑)。なんだかそのギャップが素敵だなと思っています。

――『マーキュリー・ファー』はその白井さんとイギリスの劇作家フィリップ・リドリーとの5度目のタッグとなるわけですが、リドリーという作家については?

白井さんが演出した『ピッチフォーク・ディズニー』(2002)などを観ています。内在している芯をいろんなもので隠す作家なので、演じる上で、その芯に当たればいいなと思っています。どうしてもバイオレンスだったりが特化して見えてしまいがちなのですが、実はそんなことはなくて、実際の芯はとてもシンプルで普遍的というか。置かれている状況は特殊かもしれないですけれど、その特殊な中でとっても普遍的な兄弟がいるという。僕はそういう話として受け取りましたし、そういう話を白井さんが演出されたら美しい世界になるだろうなと思ったので、お話をいただいたときは「うわ、ぜひやらせていただきたい!」という思いでした。

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――白井作品の経験者としても、リドリー作品と白井演出との相性の良さを感じていると。

勝手ながら感じていると思います。白井さんだったらこういう作品を僕が想像する以上に美しくしてくださるだろうって確信はあったので。その美しさというのは不必要な虚飾ではなくて、やっぱりリドリーをやる上では必要不可欠だと思うんです。例えばこれが過剰にバイオレンスだけを際立たせた演出だったりする場合、とっても恐ろしいことになると思う。白井さんのフィルターをかけた上でないと、この作品の芯が伝わらない可能性があったりするのでは、とも感じます。そう考えるとリドリーと白井さんというタッグは、お互いの世界が増築、増幅していくものだと思います。

――さっきおっしゃった「シンプルで普遍的」というのはどんなところに感じましたか?

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この“死と隣り合わせの感覚”って、基本的に誰もが持っているものなのではないかなと思いまして。自分の頭に銃口突きつけながら生きるというのではないにしても、真綿で首を絞めて自分を殺していくような感覚だったり。僕が演じるエリオットという役は、登場人物の中で一番常人ではあるのですが、特にそのような感覚を持っている人間だと思います。エリオットとダレン(瀬戸康史)はまるでナイフの上を歩いているような兄弟で、ちょっと足を滑らせてバランスを崩したら切れてしまうような状態の中でずっと生きてきていて。その中で、むしろ死んだ方がいいかもっていう選択肢がエリオットたちの世界にはあって、僕たちの世界でもそういう感覚はあるよなと思うんです。でもそれが極限かというと、僕はそうでもない気がしていて。だから小難しくこねくり回せばいろんなことがいくらでも出てきそうだけど、本来描いているのはその状況に追い込まれた兄弟の普遍の愛のはずで、だからとてもシンプルなものなんですよね。

Part2へ続く

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プロフィール
たかはし・いっせい
1980年12月9日生まれ、東京都出身。デビュー以来、さまざまな映像・舞台で幅広く活躍。特に近年はテレビドラマへの出演が多く、昨年はNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』をはじめ、『信長協奏曲』『ペテロの葬列』『夜のせんせい』などの好演が記憶に新しい。世田谷パブリックシアター『4 four』の演技にて2012年第67回文化庁芸術祭賞演劇部門芸術祭新人賞受賞。


『マーキュリー・ファー』
2015年02月01日(日)~2015年02月22日(日)
シアタートラム
[作] フィリップ・リドリー
[演出] 白井 晃
[出演] 高橋一生/瀬戸康史/中村 中/水田航生/小柳 心/小川ゲン/半海一晃/千葉雅子
[お問い合わせ]世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515

2月28日(土) 兵庫県立芸術文化センター
3月8日(日) キャナルシティ劇場

[ストーリー]
ボロボロの部屋に兄弟がやって来る。パーティーの準備にかかるが、そこに1人の男が突然顔を出し、「バタフライ」が欲しいので手伝うと言う。しばらくするとローラと呼ばれる美貌の人物が現れる。そしてもう1人、このパーティーの首謀者らしき男と謎の婦人がやって来る。彼らはパーティーのためにそれぞれの役割を、異常なほどの饒舌な会話を交わしながら行う。やがて、パーティーゲストがやってきて、パーティープレゼント(と呼ばれる青年)が用意されるのだが、パーティープレゼントの異変により、パーティーは思わぬ展開に…

 


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