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こまつ座『十一ぴきのネコ』『マンザナ、わが町』公開稽古レポート
戦後70年の今年、井上ひさしの遺志を伝えるべく、精力的に公演を行っているこまつ座。10月には、長塚圭史演出『十一ぴきのネコ』と、鵜山仁演出『マンザナ、わが町』が相次いで開幕する。公演に先立ち、両作品の稽古の一部が公開された。(取材・文/高橋彩子)
NEWS & INFORMATION 2015 9/26 UPDATE
『十一ぴきのネコ』
☆2本目の動画では、旅に出る猫達がコミカルに歌い踊る曲をご覧いただけます☆
『十一ぴきのネコ』は馬場のぼるの絵本をもとに、井上ひさしが1969年に人形劇として作り、その後、音楽劇に発展した作品。野良猫たちの大冒険を通し、大人も子供も楽しめるエンターテインメントであり、かつ、現代社会を照射するものとなっている。長塚演出版は2012年の初演に続いての上演だ。
この日公開されたのは、お腹を空かせた猫達が死んでしまおうかと考える「空腹退治は死ぬのが最上」の場面。稽古前から俳優たちは和気あいあいとした雰囲気で、稽古前の声出しには猫の鳴き真似も混じる。猫十一ぴきのキャストは、北村有起哉、中村まこと、市川しんぺー、菅原永二、金子岳憲、福田転球、大堀こういち、木村靖司、辰巳智秋、田鍋謙一郎、山内圭哉と、いいオジサンたちだが、荻野清子のピアノと共に発せられる彼らの声はさすがの響き。猫同士の喧嘩シーンや、勝部演之演じる鼠殺しのにゃん作老人がもたらしたご馳走の情報にゴロゴロと喉を鳴らす様子は、生き生きとして愛らしい。猫という設定の中で、男性俳優陣本来の魅力が大いに発揮された舞台だ。ご馳走を目指し、ハットにマント姿の北村を中心に、ミュージカル調で歌い踊る一同。それを見送る勝部の哀愁漂う姿も印象深い。
長塚は「この作品は、言葉遊びなど純粋に楽しめるものでありながら、そこに井上さんの辛辣な社会を見る目が非常に巧妙に入り込んでいる。3年半前の初演では、おとなと子供が一緒に劇場にきて歌や踊りを楽しみ、観終わったあとには『あれはどういうことなのかな?』と子供が聞き、親がすぐ答えられないといった会話が生じていました。そうした深くて厳しいことが含まれた、普遍的な素晴らしい作品です。今年は、初演時とはまた違うかたちで現実を突きつけられ、同時に非常に楽しいというその対比が、より鮮明になるのではないかなと思っています」と述べ、北村は「初演の時はいっぱいいっぱいで、余裕がなかったんですが、今回、メンバーもスタッフも変わらない再演の中で、前回できなかった発見もできています。濃厚な舞台になると僕らも期待しています」、山内は「ジャニーズの方も宝塚歌劇団の方も出ていない、動員的に厳しいキャスティング(笑)。その分、雑草育ちの我々がフルスイングでやる姿を楽しんでいただきたい」と意気込んだ。
『マンザナ、わが町』
☆浪曲と西洋歌唱が重なり合う、第一幕のクライマックスをご覧いただけます☆
続いての公開稽古は1942年3月、カリフォルニア州マンザナ強制収容所が舞台の『マンザナ、わが町』。所長の命令で“マンザナは強制収容所ではなく日系人達の自治で運営される町だ”という内容の劇を上演することになった5人の日系人女性、ジャーナリストのソフィア岡崎、浪曲師のオトメ天津、謎の女性サチコ斎藤、歌手のリリアン竹内、日本人であることがハンデになっている映画女優のジョイス立花が、劇作りを通して葛藤するさまを描いた作品だ。1993年に紀伊國屋ホールで初演された本作は、今回も同じ紀伊國屋ホールで上演される。
公開されたのは3場「子を恋うオトメ」の一部。ソフィア役の土居裕子、オトメ役の熊谷真実、サチコ役の伊勢佳世、リリアン役の笹本玲奈、ジョイス役の吉沢梨絵はそれぞれ、自らの夢や理想を交えながら劇の上演に取り組むのだが、古来の日本文化を信奉するソフィアやオトメと、アメリカ文化を楽しみたいリリアンやジョイスの意見がぶつかり合う。彼女達の様子を、サチコは独特の距離感で見守っている。
小さなコップに小枝を差して日本を表現し、逆さにした椅子にマンザナを象徴するタンブルウィードを乗せてアメリカを表すソフィアの演出案。三味線を弾きながら浪曲をうなるオトメと、蓄音機をかけて西洋風に歌うリリアンの対立。これらには、二つの国の文化の違いが端的に示される。しかし、浪曲と西洋歌唱が不思議に合う瞬間も。異なる価値観を持った者同士、どう折り合いをつけ、理解し尊重し合えるのか――。それは、現在も世界が抱える問題に他ならない。
鵜山は「日系人の強制収容は、アメリカ合衆国憲法の修正第5条に違反していました。この作品には、70数年前の舞台の設定と今をつないで、1000年先までつなぐようなエネルギーとメッセージがあります。ここに登場する女性達は、辛い現実を乗り越えた。アートには現実を乗り越える力があります。何世代かかけて現実を乗り越え、新しい見方考え方をするというのが、井上ひさしさんが謳ったアートの可能性だと思う」と力強く語った。
こまつ座第112回公演・紀伊國屋書店提携
『十一ぴきのネコ』
作:井上ひさし
演出:長塚圭史
出演:北村有起哉 中村まこと 市川しんぺー 菅原永二 金子岳憲 福田転球 大堀こういち 木村靖司 辰巳智秋 田鍋謙一郎 山内圭哉 勝部演之 荻野清子(ピアノ演奏)
日程:10月1日(木)~17日(土)
会場:紀伊國屋サザンシアター
※大阪公演、北九州公演あり
こまつ座第113回公演・紀伊國屋書店提携
『マンザナ、わが町』
作:井上ひさし
演出:鵜山仁
出演:土居裕子 熊谷真実 伊勢佳世 笹本玲奈 吉沢梨絵
日程:10月3日(土)~25日(日)
会場:紀伊國屋ホール
アフタートークショー・イベント開催決定!
『十一ぴきのネコ』
■スペシャルキャストトークショー
10月11日(日)12:30公演後 北村有起哉、他5名
10月15日(木)14:00公演後 山内圭哉、他5名
■井上ひさし戦後70年特別アフタートークショー
10月5日(月)14:00公演後
長塚圭史(演出家)「子どもと大人のユートピアを探して」
10月8日(木)14:00公演後
宮尾節子(詩人)「ふつうのことを ふつうにいえば」
■バックステージツアー~ネコたちの世界を探検しよう!~
10月10日(土)17:30公演後
10月12日(月祝)17:30公演後
『マンザナ、わが町』
■スペシャルキャストトークショー
10月12日(月祝)13:30公演後
土居裕子 熊谷真実 伊勢佳世 笹本玲奈 吉沢梨絵
■井上ひさし戦後70年特別アフタートークショー
10月19日(月)13:30公演後
浜矩子(エコノミスト・同志社大学大学院教授)
「正義と平和が抱き合う先に」
■井上ひさし戦後70年特別アフタートークショー
10月4日(日)13:30公演後
落合恵子(作家・クレヨンハウス代表)
「声の小さきものの側から」
※詳細は公式サイトhttp://www.komatsuza.co.jp/をご覧ください。